2 エドヒガン(神代咲良)

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2 エドヒガン(神代咲良)

「おい、神代(かみしろ)、寝るんじゃねえよ」 「あぁ? 着くまでは関係ないでしょ」 「施工図、頭に入れとけよ。現場着いたら確認する時間なんてないんだからな」  俺は仕事場に向かう狭いワゴンの中で、むさ苦しい連中の汗の臭いにまみれながら揺られていた。仕事場といっても日雇いバイトの延長のようなものだ。単発の現場をあっちに行ったりこっちに行ったり、今日みたいにワゴンで連れ回される。  今日はどこぞの夜間イルミネーションだとかの設置らしい。時間かけて光らせたところで、来月にはまた別のテーマだとかなんとかで、とっぱらわれるのがわかっている。星でも見ときゃいいんだ。日本人はほんとくだらねぇ。 「この間の雨ですっかり桜も散ったな。桜ってのは綺麗だけど、路面に落ちた花びらに雨が降るとぐちゃぐちゃになってひどいもんだよな」 「まだ咲いてますよ」 「どこだよ」 「ほら、あそこです」 「何ふざけてんだよ、なんも見えねぇ。神代、悪いのは性格だけにしとけ」  あれはギョイコウだ。腐ってんのはおまえらの目だ。  ぼそっと俺は呟いた。ギョイコウはサトザクラの一種だが、緑の花を咲かす。時期もソメイヨシノより遅くて、咲いていたとしても気づく人は殆どいない。  俺は誰も見上げないギョイコウが散る直前に花の中心が赤く染まるのが好きだった。  こいつらが桜だ桜だといってんのは、全部ソメイヨシノだ。ソメイヨシノがクローンだってことさえ知らないおまえらが、花見なんてする価値もない。  今年は未依と桜を見に行ってない。バイトが落ち着いたら、六月には蛍でも見に連れていってやらなきゃな、きっと寂しがってる。  俺らは二年前に未依の就職に合わせて一緒に上京してきた。  幼少期から親父の祖父母に育てられてきた俺は、両親の顔なんて殆ど覚えてなかった。  祖父母に何度か両親のことを尋ねたことはあるが、やれ仕事で海外へ行ってるだの、やれ事故死しただの病死だのと毎回真実味のない話ではぐらかされた。  ただ親父がろくでなしだったことだけはわかっている。中学、高校と上がる頃には俺の素行は悪くなってゆき、警察にパクられ、身元を引き受けに来てもらうたびに祖父母は泣きながら、おまえもあいつのようになるのかと責められたからだ。  ただ悪いことばかりじゃない。未依とは祖父母に引き取られて出会うことができたからだ。  引き取られたばかりで右も左もわからない俺に、未依はいつも優しく接してくれた。じいちゃんは庭師で、近くの寺のでかい桜の剪定を頼まれていた。学校の運動場にあるみたいなしょぼい桜とは訳が違う。  友達がなかなかできなかった俺は、じいちゃんの仕事についていって、その桜の太い枝を折ってこっぴどく叱られた。  ふらふら歩いているとあいつが「どうしたの?」ってにっこりと歩いてきたのを今でも思い出す。  俺らはすぐに、ずっと一緒にいたみたいに仲良くなった。  未依は見た目はパッとしない地味な感じだけど、大切なのは外見じゃない、中身だってことを俺は知ってる。小、中、高と同じ学校に通い、俺たちは高校に入る頃には既に付き合っていた。  中学で音楽にのめり込んだ俺は、友達と『メビウス』というロックバンドを組んでライブなんかも頻繁にやっていた。高校に入る頃には地元でも結構有名なバンドになっていて、今思うとあの頃が一番輝いていた気がする。  未依が樹齢二○○○年のエドヒガンを見て、 「ねえ、エドヒガンってさ、葉よりも先に花を咲かせるんでしょ? きっと朔良みたいだね! 今に一気に有名になるよ!」  って言ったあのときはいつだったか、未依は半袖の白いセーラー服を着ていた。 「未依。ソメイヨシノはエドヒガンとオオシマザクラの掛け合わせなんだぜ。俺がエドヒガンなら、おまえはオオシマザクラだな」  まだ十代だった俺のそんなセリフに、未依は恥ずかしそうにうつむいていた。  言い寄ってくる女も、慕ってくる後輩も、とにかくバンドにバイトに喧嘩と大忙しだったが、未依との時間だけはどれだけ疲れていても取るようにしていた。  決して美人なタイプじゃなかったけれど、俺にはずっと昔から未依だけがすべてだった。しかし上京して二年も経った今、そんな彼女の様子も随分と変わってしまった。  上京したてで、アパートで二人暮らしを始めた頃は優しかった未依も、この都会の空気の悪さなのか、仕事に追われる忙しい毎日のせいなのか、少しずつだけど確実に、彼女の心は荒んでいってるように思えた。  未依はデザイン関係の仕事をしている。詳しくはわからないがとにかくデザイン関係の仕事だ。  あいつは昔からやると決めたらとことん追求するタイプで、興味の湧いたことは納得いくまで調べあげ、必ず自分のモノにしていた。  俺はそんな未依を尊敬していたが、たまにその暑苦しい性格がこっちに飛び火し、巻き込まれることもあった。  明日もそんな飛び火の結果で俺は気の進まない勉強会なんてものに参加するはめになっていた。  きっかけは一週間前だ。  俺は稼いだ金を握りしめ、彼女の誕生日プレゼントを買うためにとある雑貨屋を訪れた。  辛気臭い店で、適当に塗られた壁のペンキや下手糞な手作りの棚に雑貨を並べてある小さな店だ。 『LoOp』  その店の名前に惹かれて入ったものの、すぐに失敗したと感じた。  店には喫茶用のカウンターがあった。何も買わずに出るのも気が引けたので、珈琲を一杯飲んで帰ろうと思った。  店員は俺と変わらないぐらいの歳の奴で、長ったらしい髪を女みたいにパーマをかけた気持ちの悪い奴だった。  わしづかみにして抜いてやりてえ、そう思った。  店のBGMも古臭そうなジャズなのかシャンソンなのかよくわからない音楽で、居心地が悪くて仕方なかった。  俺はその店員が出した珈琲を一気に流し込むと、すぐさま金を払って帰ろうとしたが、レジ横にあったショーケースの中のリングにふと目が留まった。  シンプルなシルバーのリングだったが、メビウスの輪の形をイメージさせるデザインで、俺はそれが一目で気に入った。  店員にそのリングをプレゼント用に包んでくれと頼むと、店員は蚊の鳴くような声でボソボソと喋っている。 「なんでもいいから早くプレゼント用に包んでくれよ」  そう言うと、またぶつぶつ言いながら箱にリングを詰めて俺に渡した。  あんなシンプルなリングだったが、値段は恐ろしいほど高くてぼったくられた気分だ。だけど、気に入ったリングも見つかったし、たとえどんなに高くてもあいつの喜ぶ顔が見られるなら構わない。  その夜、部屋で未依が仕事から帰るのを待ち、俺はさっそくあのリングを渡した。俺の手元にあるこじゃれた箱を見た未依は目を輝かせ、やけにはしゃぎながら包装紙を壊れものでも扱うように外していった。  中におさまっているものを目にした未依は、仕事の疲れも吹っ飛んだような高い声をあげた。 「どうしたの!? すごくセンスの良いリング! ありがとう、高かったでしょ?」 「まぁな、バイト代がほぼ飛んでったよ。でもおまえの喜ぶ顔が見たかったからさ」  照れ臭いのもあったが、俺が素っ気なげにそう言うと、未依は一瞬黙り込んで、リングをじっと見つめていた。  よほど嬉しかったんだろう。 「はめてみろよ」  なかなか指にいれようとしない未依の左手をとり、薬指をつまんでやると、その手がぐっと湿ってくるのがわかった。 「すごい、すごく素敵」  心なしか、目元がうるんでいるようだ。気を良くした俺はリングを買った店の話をベラベラと話し始める。  潤んだその視線がこっちをみないのがもどかしかったが、こんなに喜ぶなら、慣れないドアを開けてみた甲斐もあったってもんだ。 「あんな店はごめんだけど、小さなライブスペースのある喫茶店で、夜はBARになる店を俺も持ってみたいよ」  この言葉に未依は反応した。俺の意見に突然賛同し、スイッチが入ったようだった。 「それ、すごくいいね! 朔良はそういう仕事が似合うと思う! その夢、頑張って実現しよう!」  ついその場のノリで話した考えたこともない夢物語に、未依は自分のことのように喜んで、これ以上ないほど俺を褒めた。  浮き足立った俺は、彼女のお節介に乗せられて、こうして場違いな起業セミナーなんてものに参加する羽目になった。  バイトの途中、ふと気づくと未依から不在着信が入っていた。  ああ、やべえ、今日帰れないことを話していない、俺は申し訳ない思いで作業手袋を外すと未依に折り返す。 「ああ、未依、今日は夜間バイトになるから帰れないんだ。明日はそのままセミナーに行くからな。帰れなくてごめん」 「え? うん、あたしは大丈夫だよ。セミナーは十一時からだよ! 忘れないでね」  未依の声はいつもより弾んでいるように聞こえた。気のせいか辺りが騒々しい。 「未依? 外なのか?」 「え? もう家だよ! 少しは眠れるといいね。おやすみ朔良!」  よくわからない色の電飾を俺は適当につなぎながら、絡まった枝をちぎって捨てた。  事務所でワゴンを降ろされて、そのまま電車でセミナー先に向かう。駅から十五分も歩いた小さめの会館に、徹夜上がりの作業着のまま入ると、何人かのすかした野郎がさげすむように俺を裾目に見ながら通り過ぎていった。  教室は百人くらいは入れる広さだったが、特に満席ってこともなく空いている。俺の隣には案の定誰も座らない。汚れた作業着の上を脱いで、隣の椅子に無造作に置いて、俺は辺りを見渡した。  教室の中では、人生もほぼ終わってるような奴らが半分、半ば終わってるような奴らが残りの半分だ。  そんな終わってる連中に、人を見下したような目をしたやる気のなさそうな偉そうなおっさんが、小さな声でホワイトボードに訳のわからない文字やら絵を書いてぶつぶつと呪文を唱えている。  結局、俺はまともに授業を聞くこともなく、中学、高校とやってきたように昼寝で時間を潰した。  風呂上がりにビールを飲みながらテレビを見ていると、仕事から帰った未依が、もどかしそうにヒールを脱ぎながら、目を輝かせて駆け寄ってくる。  帰ってきたのは彼女だが、主人の帰りを待ちわびていた犬っころそのものだ。じいちゃんが飼ってた柴犬の雑種のタケシが、興奮しすぎるとシッコを漏らしながら飛び散らせていたのを思い出す。 「どうだった!?」 「あぁ、ためになったよ。とにかく今は金を貯めないとな」  彼女の喜びそうな返事を心得ている俺は、すかさずそう返した。そんな俺の言葉を聞いた未依はますます嬉しそうに夢物語の続きを創り始めた。 「ねえねえ、朔良の考えてるBARってさ、どんな感じ? お酒は何にこだわる?」  長くなりそうだ。タケシも一度散歩に連れ出すと、ちょっとやそっとでは帰してくれなかった。筋肉の締まりもない、もうヨボヨボのじじいだったが、綱を引くあの力はいったいどこから出てたんだろうな。 「飯まだだろ。先に食えよ」 「ごめん、実は今日も外で食べて来たんだ」 「またかよ、ここのところ毎日じゃないか。帰りも随分遅いし、昨日だって」  俺が少し怒ったように話すと、未依は笑いながらはぐらかした。 「ごめん、ごめん、でも朔良がやる気になってくれて本当によかった!」  未依はそのままシャワーを浴びに風呂場へ行ってしまった。言いようのない不安と、取り残されたような孤独感が一瞬俺を覆う。そういえばあいつ、俺があげたあのリングしてなかった。考えれば考えるほど、小さかった不安が大きく膨れあがる。  まさかあいつ、他に男がいるんじゃ……。  そんなことまでが頭を過ぎった。そんなはずない、俺は残りのビールを飲み干し、布団に潜り込むと未依が風呂から出てくるのも待たずに無理矢理眠った。  翌朝、どうしてもリングのことが気になった俺は、出勤前の未依を問い正した。 「え? ちゃんと持ってるよ」 「じゃあ、なんでしてないんだよ」 「いけない! 今日は朝からプレゼンがあるんだった! ごめん、もう行くね」  はぐらかすように慌てて出ていった未依に、俺の不安と孤独感はさらに増す。  その日のバイトは昼から夕方までの予定だったが、メンバーが来れなくなって、急遽夜まで引っ張られ、バイト先を出たのは夜の九時頃だった。  うんざりした夜道をアパートまで歩くと、リングを買った雑貨屋『LoOp』が見えてくる。  俺は今朝の彼女とのやり取りを思い出して胸糞が悪くなった。  足早に店を通りすぎると、少し行ったところでふいに男女の話し声が聞こえてくる。  女の方は聞き馴染みのある未依の声だ。俺はとっさに側にあった電柱の影に身を潜め、二人の会話に聞き耳を立てた。  だけど、ここからじゃ会話の内容まではわからない。でも間違いなくあれは未依だ。男の方は見覚えがあるものの誰かまでは思い出せない。  いつの間にか心臓が激しく鼓動していた。息苦しさと胸の痛みで圧迫死しそうだ。手は小刻みに奮え、足には力が入らず倒れそうな感覚に襲われる。 「どうして! どうしてこんな……」  未依はこの街に来てから変わってしまった。  真面目で芯が強く、何事も途中で投げ出したりしない性格だった未依は、都会の汚れた空気を吸い、忙しく仕事に追われる生活の中で、背負い過ぎた大きな荷物に疲れ少しずつ大切なものを捨てて生きていくようになったんだ。  そして、そんな疲れきった彼女の心の隙間にハイエナどもが群がっていく。  二人は話し終えると別々の方へと歩き出した。  俺は迷わず男の後をつける。大通りに出るとビルが立ち並び、人で溢れ騒々しい。  俺はそのまま男の後ろに距離を保ち、歩いていった。ふとポケットの中の携帯が着信を知らせる。未依だった。 「もしもし? ごめんね、今日も遅くなっちゃって。今帰ってるところだよ!」 「そうか、俺も同僚が休んで人手が足らないから、まだ帰れそうにないんだ。今日は先輩の家に泊めてもらうよ」 「そうなんだ、大変だね。バイト頑張ってね。あっ! そうだ、近々大事なことを話したいんだけど」  俺はさらに胸が苦しくなって、その場に立ち止まった。 「わかったよ、じゃあ今度話そう。それから……、ごめんな、おまえのこと、わかってやれなくて」  精一杯、元気に振る舞い、自分の気持ちを彼女に伝える。 「うん!」  未依は嬉しそうに返事をすると、電話を切った。  本当にごめんな……もう二度とおまえに寂しい思いはさせないから。  俺は携帯を握りしめ、男の後を追う。  この辺りはバイト先にも近く、それなりに土地勘があった。  男がビルの間の裏路地へと入っていく。この先は居酒屋が並ぶ通りだ。男との距離を詰める。  角を曲がると店先に置いてあったビールケースから空き瓶を掠め取った。通りには運良く人は出ていない。  顔は見られないようにしなくては。  パーカーのフードを被ると、自分の心にも、真っ黒な何かが覆いかぶさったような気がした。  俺は空き瓶を高く振り上げると、男の後頭部目掛けて力一杯振り下ろした。  鈍い音が辺りに響き、瓶は割れて男と一緒に地面に転がった。俯せに倒れた男を仰向けにすると、何発かを男の顔面に入れてやった。何発入れたかは覚えてない。  ただ、このときはっきりと男の顔を思い出した。こいつは『LoOp』の店員だ。  俺は辺りが騒ぎ始める前にその場を立ち去ると、路地から出てすぐに、バイト仲間に電話し、迎えに来てもらった。 「しばらく泊めてくれよ」  救急車やらパトカーで賑やかになった街の中、友人は驚きながらも、何も聞かず承諾してくれた。  あの男の生死も気になるが、仮に死んでしまったとしても目撃者はいないはずだ。  生きていたとしても突然のことで覚えてないだろう。それにあいつが悪いんだ。きっとあいつが上手いこと言って未依をたぶらかしたんだ。あいつは死んで当然の奴なんだ。  フードはとっくに外したのに、心に被さる真っ黒な何かだけは、いつまでも外されないままだった。  翌日、俺は新聞やらニュースやらを調べまくったが、それらしい死亡事件は一切出ていなかった。その日夕方の六時頃、未依から電話がかかってくる。 「朔良? 今日もバイト?」  未依の声はいつもと変わらない。俺は少し混乱していた。 「あぁ、ごめん、帰れそうにないんだ」 「そうなんだ残念。明日は帰ってこれる?」 「まだ、わからないけど、なるべく帰るようにするよ」  俺は電話を切った後、しばらく一人で考えていた。  どういうことだ? 男が暴行されて、死んでいないにしても、大怪我はしてるはずなのに……。今日は連絡を取り合ってないだけなんだろうか?  翌日も俺は同じように新聞やニュースをくまなく調べたが、やはりあの男に関するものは何もなかった。  その日は夜の十時も回った頃に未依からの着信が鳴る。 「もしもし? 家にいる? あたしも今から帰るところだよ」  昨日とは打って変わって元気のなさそうな未依の声に俺は確信した。  今日はあの男と連絡をとったんだ、ってことはあいつはまだ生きている。俺の中で再び怒りがフツフツと湧き出した。 「あぁ、ごめん、今夜も帰れそうにないんだ。明日は必ず帰るよ」  そう言って俺は電話を切った。そう、明日は必ず帰るから……。  二日連続でバイトを休んだこともあり、翌日は通常通りバイトに出かけた。夕方バイトを上がるとその足でホームセンターに行き、刃物を買った。レジの太った女が、妙に丁寧に刃物を包んだ。  辺りが暗くなるまで待ち、雑貨屋『LoOp』へと向かう。  店のシャッターは半分降ろされ、中の電気も消されているのか薄暗い。フードで頭を覆い、パーカーの内側に刃物を隠し持った。  店内に入ると驚くことにあの店員はおらず、代わりに店には似つかわしくない親父が何やら作業をしていた。  こちらに気づいた親父は、何かを呟きながらこっちに寄ってくる。  俺はその男が手に持っているものを見て驚いていた。それは、俺が未依にあげたリングだ。どうしておまえがそれを持っている。  俺は男の手に持つリングを指差し、それは? と訊ねた。 「これは彼が恋人に贈るリングだよ」  その一言で充分だ。俺の中で何かが弾けて壊れていった。気づくと俺の目の前にはさっきの男が転がっていた。俺は真っ赤なリングを拾いあげると、放心状態のまま呟いた。 「じいちゃん、ばあちゃん、ごめん……」  外に出ると、真っ赤に燃え上がるように輝く月がとても綺麗に見えた。今頃彼女も同じ月を見ているんだろうか?  未依、もう少し待っててくれよな、これが片づいたら、一緒に田舎へ帰ろう……。目に映るすべてが輝いて、楽しかったあの頃へ……。  俺は導かれるように歩き出していった。
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