03-08 噛みつき合う

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 口元を引きつらせた太一さんが、おそるおそるといった、私のごきげんをうかがうような態度で質問してくる。 「傷を抉るようで申し訳ないんだけど、すももちゃんは朝海になんて言ってフラれた?」 「エ!? 円山先輩、すももをフったの!?」 「トモ、いったん静かに」  え、なんでこの人私がフラれたの知ってるの? でも待ってそしたら灯深がそれを知らないのは何? もしかしてそっちのおさななも事情筒抜け? 「……週刊誌に私とのゴシップが載る寸前まで行って、そういうのうっとうしいから別れたいって……」  太一さんが、顔を両手で覆って天を仰いだ。塞がれた口元から、呪いの言葉のような、朝海、ボケ、などという単語が漏れ聞こえる。 「えっ、待って待って、それは違うじゃん!」  静かに、を守れない灯深が声を荒らげる。それは違うじゃんとはいったいどういう。 「仮にすももがフラれるとしても理由が違うじゃん!」 「いや、もう、トモ、俺はすべてを理解したんだ、頼むから黙ってくれ…………」  燃え尽きた様子の太一さんと、その太一さんの肩を掴んで揺さぶる灯深。意味が分からない。  何か、私の知らないもう少し踏み込んだ事情でもあるのだろうか? 「なに……?」 「すもも、まさか知らな……!?」 「何を……?」 「円山先輩はッ」 「待てトモ俺が話す」  口紅がてのひらにつくのも厭わず、太一さんが力尽くで灯深の口をふさいだ。もごもご言っている灯深に目配せして、少し時間をかけて見つめて落ち着かせ、ゆっくりと手を下ろす。  はてなになっている私に向き直ると、太一さんはゆっくりと話し出す。 「まず、俺の仕事は知ってるな?」 「ベイサイダーのユースの育成コーチ……」 「そう。所属的には朝海と近いワケ。だから、クラブの内情もある程度分かる」 「はあ……」 「週刊誌にすっぱ抜かれそうになった、それを寸前でやめさせた、ってのは嘘だ」  え。  目を、見開いた。
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