03-08 噛みつき合う

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「伊勢の件があってから、俺もアイツにはちゃんと、自覚しろよって話をしたんだよ。あ、伊勢の話はしてないよ、すももちゃんとの約束だからな。アイツもかなり気を使うようになったし、部屋にも時間差で入るようにしたって言ってたし、外で一緒の写真を撮られるわけないだろ」 「……た、たしかに……」  あのとき、別れ話をされたとき、何を疑うこともなく「週刊誌に載るような証拠の写真」があることを信じたけど。言われてみたら朝海先輩は帰りにタクシーを呼んでくれるときもエントランスまでお見送りには出なくなったし、それを私も「気をつけているんだろうな」と理解していた。  だから、今更ツーショットをパパラッチされるわけがないんだ。 「週刊誌に載る載らないなんて話は、朝海がすももちゃんと別れるためにつくった嘘」 「そんな……」 「で、ここから本題。なんで朝海がすももちゃんと別れたがったか、だけど」 「……」  そんな事実を知ったら、もうイヤな予感しかしない。  朝海先輩は有名になったし、もしかしたら爆美女モデルと熱愛始まってしまったんかもしれん。無理泣く。 「アイツ、……フェルテ・マドリードに移籍が決まって」 「…………と言うのは」 「すげえ怪訝な顔するじゃん。スペインのサッカーリーグの、ラ・リーガの一流クラブだよ」  伊勢格の件があってインスタアカウントを削除してしまった私は、円山朝海のアカウントを追うことはできなくなっていた。  ネットでニュースを追いかけたり、真剣にテレビニュースを見る習慣のない私は、朝海先輩の海外移籍が決まったことも知らなかった。  フラれてから、意図的にサッカーの話題から離れていたのもある。しばらくは平常心で朝海先輩のプレーを見ることはできないだろうと思ったから。気持ちが落ち着いたら、と思っていた。 「決まったとき、アイツ珍しく俺にぼやいてたよ。スペイン語全然分かんねえな、って」  いつか、朝海先輩の部屋で見つけたスペイン語のテキスト。あのときは「スペインリーグの試合を解説つきで見たかった」と言っていたけど。  どうして彼はスペインリーグの試合を解説つきで見たがったのか。 「もちろん、海外リーグでのプレーはアイツの夢のひとつでもあったから二つ返事で頷いたとは思う。俺はその場にいなかったから分からんが」 「……」 「だから、すももちゃんがフラれた原因は、……ああ、いや。何をどう言い繕っても変わんねえか。すももちゃんは結局、朝海の夢に邪魔な存在だったんだ……」 「ちょっと太一くん!」  黙って見ていた灯深が、太一さんの言い草に思わず噛みつく。  そっか。朝海先輩、スペインに行ったんだ。夢のひとつを叶えて、海外の強豪チームでプレーするんだ。
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