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①
「おかえり〜」
学校帰りの道すがら、聞こえた声に思わず振り向いた。
ランドセルを揺らして声の元へと駆け寄る女の子が目に入る。
声の元は、おそらく母親なのだろう。その女性は腰をかがめ、女の子を受け止めた。母親であろう女性に、女の子はもちろんこう答える。
「ママ〜ただいま〜」と。
私は時間を浪費したとばかりに前へ向き直り、再び歩き出す。
私の通う高校は、自宅から徒歩十分のところにある県立高校だ。
バスや電車を乗り継いで行けば、私の学力に見合った高校へと入ることはできた。でも、しなかった。
母親には散々文句を言われたが「この学校が気に入ったんだ」として強引にここを選んだ。学力的には劣るが、それほど悪くもない学校だったし、何より徒歩なので交通費がかからない。
女手一つで育ててくれている母に、かける迷惑は最小限にとどめたかったからだ。
「おかえり」は、聞くものじゃなく言うもの。ずっと、そうしてきたから分かってはいたのに。
あ〜あ……不覚にも振り向いてしまった。
早く帰ろう。
誰もいないおうちへ。
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