放課後の図書室で

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「僕がこの小説を読もうと思ったのは、小川さんがいたからなんだ」 不意にそんなことを言われて、私は本から顔を上げて水沢くんの方を見る。彼の顔はさっきよりも赤く染まっていた。その表情に私の胸が甘く音を立てていく。 「私がいたから?」 「僕の世界は本だけだった。ゲームとか、スポーツとか、みんなみたいに夢中になれなかった。本しか好きになれなかった。でも小川さんだけはこんな僕を馬鹿にしなかった。一緒に読書をしてくれた。それが嬉しくて、それと同時にこの気持ちが何なのか知って、戸惑ってどうしたらいいのかわからなくなった。そんな時にこの本に出会ったんだ」 水沢くんが一歩私に近付く。そして彼の震える唇が言葉を紡いだ。 「小川さんが好きです。こんな僕に好かれて迷惑かもしれないけど、好きなんです」 消えてしまいそうな小さな声での告白だった。でも、私の耳には一言一句はっきりと届いた。私は「迷惑じゃない!」とすぐに否定する。 「転校してきた私を異物みたいに扱わなかったのは、水沢くんだけだったよ。水沢くんがいたから読書が好きになれたし、学校だって通えてる。水沢くんと出会って私の運命は変わったんだよ!」
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