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Day1
月のない夜、気づけば僕は丘の上にいた。
名前も知らない草がサラサラ揺れている。
目の前に誰かいる。背丈は同じくらい。
髪の長さで少女かもしれないと思う。
「渡してほしいものがあるの」
その声でやっぱり女の子だとわかった。
「渡してほしいもの?」
訊きかえしながら、これはたぶん夢だろうと思った。僕はこの場所を知らないし、この子が誰かもわからない。
「自分で渡せたらよかったけど、そういうわけにもいかないから」
さみしそうにその子が笑う。
「どうして?」って僕は訊けなかった。彼女の顔が笑っているのに、まるで泣いてるように見えて。
「お願い。きっと渡してね」
その途端、まわりの風景はどんどんぼやけていって、僕は薄く目をあけた。
なんだ、やっぱり夢だったのだ。
そう思って頭をふると、視線の先に見慣れない封筒があった。
(手紙?)
白い封筒に宛先が書いてあって、「あかりより」とだけ書かれている。切手は貼られていない。僕はさっきの夢で言われたことを思いだす。
――お願い。きっと渡してね。
僕はもう一度頭を振って、夢を忘れることにした。どう考えたって僕がこれを届ける義理はない。
○○市○○町1―30―6。
封筒に書かれた住所を視線だけでなぞってみる。せめて差出人の住所がわかれば、返すこともできるのに。
――自分で渡せたらよかったけど。
夢で聞いた台詞が頭のなかでリフレインする。グーグルマップを起動して、その住所を入れてみる。場所は案外近くだった。宛名に書かれている人は本当に実在するんだろうか。
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