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Day2
「届けてくれて、本当にありがとう」
その日の夜、夢のなかで彼女はそう言った。
きのうと同じ女の子だ。二回連続、同じ場所で同じ夢をみるなんて。
僕はふたたび丘の上にいた。どういたしましてって言うべきなんだろうか。
そんな言葉は出てこなかった。お礼を言われるなんて何年ぶりだろう。たとえ夢の出来事でも。
「なか見たけど、よかったかな」
たぶんそのことも知っているのだろう。
彼女は意に介さない様子だった。
「届けてくれるならいいよ。だって何が書かれてるか気になったりするだろうし」
本当は自分で渡したかった手紙。彼女の状況を僕は考える。あり得ないことが起きているのに、その実感はなかった。
この一年、夢みたいに生きてきたからかもしれない。彼女の手紙を受けとらなければ、すべて夢で終わったのに。
「もしかして、君はもう死んでるの?」
彼女が一瞬だけハッとしたように僕を見た。
その視線を受けとめるとゆっくり笑顔になって、その顔をなぜか知っていると思った。笑っているのに泣いてるような顔。
「よくわかったね」
死んだ人が夢に出てくることを「夢枕に立つ」って言うのだっけ。
僕は昼間見た彼岸花を思った。あの世とこの世の境目が曖昧になって、こんなことが起きたのかもしれない。彼女はただ届けてほしかったのだ。自分ではもう伝えられない言葉を。そう思うと、あのとき躊躇しながらやめなくてよかったと思った。彼女の思いに応えることができて。
「また出てきたってことは、まだ届けたい手紙があるの?」
僕がそう訊くと、彼女は「当たり」と言うようにうなずいた。
「わたし突然死んじゃったから、心残りがたくさんあって」
どうして僕が、と思わなくもない。でも、その気持ちを隠して「わかった」とうなずいた。彼女ができなかったことを僕が代わりにする。嬉しそうな彼女を見たらそれも悪くないかって、その瞬間は思えたのだ。
「ありがとう。きっとよろしくね」
そう言うと、彼女の体はまた薄くなっていく。
夢が終わる気配がした。
目を開けると、二通目の手紙があった。ぼんやりした頭を振って、その手紙に手を伸ばす。住所が表に書いてあった。
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