星に願いを 君に灯を

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○○市○○町水門パレス305号室。  今回もそんなに遠くない。  宛名は「家族のみんなへ」それを見て、心臓がギュッと縮む。彼女が亡くなっているのなら、ここは彼女の生家なのだ。裏を見るとまた小さく「あかりより」と書かれていた。  帽子を被って外に出る。サコッシュのなかに手紙を入れて、グーグルマップを起動する。きのう見た彼岸花はまだ咲いていた。地図を見ながら歩いていくなか、一瞬何かを思いだしそうになる。水路を流れる水の音。 ――燈真(とうま)の絵が好きだよ。  以前、そう言ってくれた誰かがいた。  誰だっただろう。結局描けなくなってしまったけれど。よみがえりそうな記憶にそっと蓋をする。どのみち僕には必要ない記憶だ。  目的地にたどり着く。「水門パレス」と建物の前の門扉に書いてあった。入り口付近に郵便ポストがいくつも並んでる。これなら305号室の前まで行かずに済みそうだ。サコッシュから手紙を取りだす。これは不幸の手紙なんかじゃない。彼女が家族に伝えたかった言葉だ。そう知っているのに、気づけば手紙の封を開けていた。  今回も小さなシールがひとつ貼ってあるだけで簡単に取りだせるようになってる。人の手紙を見るなんて不謹慎だ。そう思う気持ちと好奇心が同じ強さで胸に渦まいていた。彼女が遺した言葉をいつのまにか知りたがっている。僕には伝えたい言葉がないから。この一年、死んだように暮らす日々のなかで、ただ透明になりたいと思っていた。風のように消えてなくなりたいと。彼女の言葉は決して届かない光みたいだった。悲しませた謝罪と感謝。僕が死んでも言えないような、透きとおった言葉の羅列。  白い便箋を取りだすと、きのうと同じ筆跡が飛びこんだ。 『お父さん お母さん ゆかりちゃんへ  こんなふうに手紙を書くことがなかったから、書けて嬉しいです。わたしがいなくなって、すごく悲しませてしまったと思う。  本当にごめんなさい。天国から見守ってるなんて、ありきたりだけれど。お盆には会いに行けたらと思います。  もう見えないけど、そんなに悲しまないで。どうか皆さま元気で幸せでいてください。  今のわたしが願うのはそれだけです。  ありがとう。         あかりより』
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