side:奏多

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side:奏多

 ーーカランカラン  店のドアが開いたことを知らせるベルの音が聞こえて、入り口に目を向ける。  入ってきたのは、平日によく来てくれるお客さんだ。  彼女を店ではじめて見かけたのは、5月のことだった。  その日、俺はレジに立っていた。ちょうどお客さんが途切れたタイミングで、店内のガラスごしに外の通りをなんとなく眺めていた。  そこに、物珍しそうに周囲を見ながら歩く女性の姿が目に入った。  年齢は自分とそう変わらないように見える。服装やリュックなどをみるに、近くの大学に通っている学生だろう。  彼女は中に入ってきて、店内を1周している。並んでいるパンを見ながら、くるくると変わる彼女の表情が印象に残った。  彼女と話すようになったのは、しばらく経ってからである。 「このパン、とっても美味しかったです。」  レジでそう言った彼女が指差したのは、俺が発案した新作のオクラパンだった。  その日をきっかけに、俺たちはたまに会話を交わすようになった。そして、徐々に彼女のことを特別に感じるようになった。
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