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「あの、でもここのページ……」
僕は司書さんに文字が連なっているページを見せる。
けれど司書さんは不思議そうな顔で首を傾げただけだった。
「何もないページが、どうかしたの?」
こんなことが現実に起こりえるだろうか。
僕にだけ見える文字。この人には見えないページ。
いったい何が書かれているのだろうかと、僕は彼女に見せていたページを自分に向けた。
――○×図書館にて不思議な本を見つける。しかしこの本が読めるのは持ち主のみ。この本の持ち主は横花白斗。彼以外に本を読むすべはない。
嫌というほど見てきた自分の名前が本に書かれている。
この本の持ち主が僕?
いや、単純に物語の登場人物が僕と同姓同名なだけに決まっている。
自分と漢字まで同じ名前の登場人物の物語なんて気になりすぎる。
だけど、この本は図書館の蔵書ではないみたいだし、目の前の司書さんにはただの白紙のノートにしか見えていない。
どうやって持ち出そうか頭をひねる。
「あの。この本……ノート、少しだけ持っててもいいですか?」
「でも誰かの忘れ物かもしれないから……」
「あ、その。その相手にちょっと心当たりがあると言うか……。と、友達が失くしたって言ってたノートのこと思い出して。これに似てるかもって思って……」
嘘を吐いたとたん、心臓がきゅうっと握られるような感覚に襲われた。
罪悪感はあるけれど、それよりも本への好奇心を抑えられなかった。
「……そうなの?」
大分苦しい言い訳だとは分かっている。僕を見る司書さんの目は随分と訝しんでいるように思う。
どこまでも嘘でしかないから仕方ないと言えば仕方ない。
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