白紙の本

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「友達にちょっと聞いてみようと思うので、このまま持ってていいですか?」 「……うーん」 「お気に入りのノートだったって言ってたので、早く返してあげたくて」 「……そう。もし違ったら、また持ってきてね」 「はい」 押し切れた。 僕は司書さんに一礼して、本を持って図書館の奥にある読書スペースへ向かった。 椅子に座ると、まるでやましいものでも見るような気持ちで周囲に目を配る。誰もいないことを確認して本を開いた。 ――この本の持ち主は横花(よこはな)白斗(しらと)。彼以外に本を読むすべはない。 図書館の司書と交渉して本を持ち出し、本の続きに目を通す。 まるで今の自分の行動と同じことをしているようだ、などと頭を過る。 しかし、あまりにも偶然が一致しすぎている。 それも当然だろう。この本は彼の運命を綴っているのだから。 なんだこれ、まるで、本当に、僕の行動と心が読まれているような……。 薄気味悪い本。今すぐにでも本を手放したいと思うのに、続きが気になって仕方がない。 ――そうだよ、横花白斗。これは君の運命が書かれた一冊だ。 「ひっ」 まるで僕に直接話しかけるような一文に、僕は思わずひきつったような声を出した。 慌てて口を手でふさいで周りを見回す。 少し離れた場所で本を選んでいた高校生くらいの人が、本棚から顔をだしてこちらを見ていた。視線だけで「大丈夫?」と問われているような気になり、僕は慌てて謝罪の意味を込めて頭を下げた。 この本、ここで読み続けるには少し怖いものかもしれない。 けれど本棚に戻すこともできず、僕は適当な本を選んでそれらに紛らせて本を借り、鞄に押し込んで図書館を出た。
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