白紙の本

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祖母のほっとしたような声を聞き、僕はすぐに玄関へ向かった。 サンダルをつっかけて玄関を開ければ、紙袋を持つ祖母が立っていた。 昔は僕より背が高かったのに、中学で一気に成長期に入った僕は今や祖母を見下ろせる。 「どうかしたの?」 「晩ご飯のおかず、作りすぎちゃったから持って来たのよ。もらってくれるでしょ?」 デジャヴを感じた。 あぁそうか。これがほんの数分前に本で読んだ光景だからだ。 まるでこれから起こることを言い当てたかのようなあの本に、恐怖と興味が同時に湧き上がる。 「白斗? どうかした?」 「あ、ううんなんでもない。ありがとう。母さんが喜ぶと思うよ」 「それはよかった。中はポテトサラダと魚の煮付けよ」 「ばあちゃんのポテトサラダ好き。ありがとう」 「どういたしまして。それじゃあね」 「うん、気を付けて」 帰っていく祖母の背中を見送ると、僕はすぐさま家の中に戻った。 おかずを適当に冷蔵庫に押し込むと、早々に自分の部屋へ。本を開き、続きを目で追った。 ――祖母はポテトサラダと魚の煮付けを持ってきてくれた。 仕事から帰った母は料理の手間が省けたと喜んでくれるだろう。 両親が仕事から帰ってくるまでの間、この本が気になって読み続けていたいなんて思う。しかし彼の頭に過ぎるのは朝に親から頼まれていた風呂掃除をまだ終わらせていないことだった。 読んで思い出した。 僕も親に風呂掃除を頼まれていたのだ。 あぁ、この本はつくづく読書の邪魔をしてくる。 僕はむっとしたけれど、本を読むことをやめられなかった。
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