運命を操る本

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運命を操る本

本は少しずつしか読み進められなかった。 なぜならいつも途中で邪魔が入るから。 しかし邪魔が入ることは本を読んでいれば分かった。 本に書かれていることが現実に起こる。数秒先、数分先に起こる未来。 それを現実で体験しなければ続きを読めない。 たとえ発生したイベントをスキップしようとしても、次のページが白紙になっているせいで、結局読み進めることもできないのだけれど。 ただ、少し先の未来を知れるのは面白かった。 学校に持っていけば、僕が授業中に当てられる問題を知ることができた。 先回りしてその問題を解き、答えを導き出していれば突然あてられても冷静に答えられる。 間違えていれば本が教えてくれる。例えば、そう……。 ――英語の問題を解き終えてこっそりと本を手に取る。 机の下で先生にバレないように本を読んでいると、寝ていると勘違いされて先生にあてられる。 しかし自信満々で口にした答えは外れ、恥をかく未来が見えた気がした。 彼は慌てて自分が解いた問題を見返す。 皆の前で恥をかく運命なんてごめんだ。 僕はまるで本に誘導されるかのように問題を見直し、確かに自分が途中で英文の訳を間違っていたことに気が付いた。 答えを書き直してから本を手に取ったが、続きを読む前に先生にあてられた。 僕の回答は正解だと褒められ、起きてるならちゃんと体を起こしてなさいと注意されるだけで済んだ。 懲りずに手を伸ばした本には。 ――問題を見直したおかげで誤答は免れた。先生に注意はされたが、彼は気にせず本を手に取る。 まるで自分を助けてくれるかのような本に感謝の念を覚えた彼は、ことあるごとに本を開くようになった。 と書かれていた。 そして本の予言の通り、僕は本に取りつかれたかのように、ことあるごとに本を開いた。 これからの未来を本で知り、冷静に行動をして、その結果が正しかったのかを本で確かめる。 未来と現在を綴られていく本を手放すなんて、とんでもないことのように思えた。
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