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入学
「レイラ、どこに行ったんだ!お前が実験中の魔法薬が爆発してるぞ!なんとかしろー!」
ある晴れた日の朝、屋敷中にレイラの父親であるファリス・フローレンスの声が響き渡っていた。
ゆるくウェーブがかった銀髪に、口元には同じ色の髭。いつもは垂れ目がちの瞳が、今はキッと釣り上がっている。
手には杖を持っており、杖の先には魔法でふわふわと浮いた丸い透明のボール。中にはモワモワと黒い煙が漂っていて、時折火花が散っている。その後処理をさせるため、ファリスは娘のレイラを探していた。
「お父様ったら、カンカンだわ……!地下室を勝手に使ってたのがバレちゃったんだわ」
一方、そんな父親を陰から覗いていたレイラは、サッと身を隠した。ファリスは普段は温厚で優しく、レイラにものすごく甘い父親なのだが、レイラが実験など危険なことをしていると、「怪我でもしたらどうするんだ!」と、ものすごく怒るのだ。
それも過保護ゆえ、といえばそれまでなのだが、レイラもこの春から魔法の力を磨くべく、ルマネスク魔法学園へ入学する一年生。入園前にしっかりと予習を行って、いい成績を収めたい。そう思っての実験だったので、そんなに怒らないでほしいな……と、心の中で言い訳をする。
「……いや、地下室を勝手に使ったというより、貴重な薬草を使っちゃったことを怒っているのかしら。もしくは、お父様が大事にしていたお母様の若い頃の写真を少し焦がしちゃったことかし──」
「あら、それはいけないわね、レイラ」
突然、隣から艶やかな声が聞こえてきたと思えば、にこりと美しく微笑む母エリザベスの姿。音も立てず、すぐ側に母がいたことに驚いてレイラは、「キャア!」と後ろに後ずさった。
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