入学

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◇◇◇ 「はぁ……私も、あと少しで魔法学園の生徒かぁ……」 自室のベッドに寝転がったレイラは、ぼんやりと呟いた。 天蓋付きのベッドの天井に広がるのは、満天の星空。父であるファリスが魔法で映し出してくれているものだった。子ども部屋を作るときに、レイラが一人で眠るときも寂しくないようにと施してくれた愛情のこもった魔法。レイラはこの星空を見つめながら眠るとき、いつもそんな心やさしい父のことを思い出す。 昔から心配性で、レイラが階段につまづいて転んでしまい、怪我をして帰った日も大袈裟なくらい心配された。一人娘ということもあり、過保護なところが多々ある父親なのだ。 「……まあ、放任主義のお母様とは釣り合いが取れていていいのかもしれないけどね」 レイラはふと笑うと、起き上がってベッドの脇にあるサイドチェストの引き出しから花柄模様の小箱を取り出した。 箱を開けると、そこには宝石のように光り輝く石がいくつか入っている。河原で見つけたものや、洞窟の中にあったもの、木の上にある鳥の巣で発見したものと、拾った場所もさまざま。なんてことはない、ただの石だけれど、幼いレイラにとっては冒険の証のようなもので、母親のエリザベスはそんなレイラの行動的なところを「いいじゃない、もっとやりなさい」とよく褒めてくれた。 「女たるもの淑女であれ」というのが世間一般的だが、母は男の子に混じって遊んだり、喧嘩をしたりするレイラのことを一度も咎めたりはしなかった。むしろ、「これからの時代は、女も強くあるべきよ」と幼いレイラに諭すほど。 そんな両親の愛情を一身に受けて育ったレイラも、ついにこの春から親元を離れてルマネスク魔法学園で寮生活をスタートさせる。寂しい気持ちも多分にあるが、いつまでも守られてばかりではいられない。レイラにはルマネスク魔法学園を首席で卒業し、魔術を極め、優秀な魔法使いになるという大きな目標があるのだから。 「それに、なんて言ったって学園にはアンリお兄様もいるものね」 そう言って、ふふと笑みをこぼすレイラ。そう。アンリは魔法薬学を教えるルマネスク魔法学園の教師の一人なのである。 転々と引越しを繰り返しているらしい彼が、隣家を去ってからは会えない日々が続いている。それでも昨年まではレイラの誕生日とクリスマスに、毎年必ずメッセージカードをくれていたアンリ。再会の日が来るのを、レイラがどれほど心待ちにしているか、きっと彼は知らないことだろう。 「……アンリお兄様に早く会いたいな」 レイラはアンリの瞳によく似た、ルビーのように輝く石を月明かりに照らしながら、小さくそう呟いた。
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