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◇◇◇
「それでは行ってきます、お父様、お母様」
旅立ちの日にふさわしい、雲一つない快晴の朝、レイラはルマネスク魔法学園行きの汽車に乗るべく、最寄り駅までやってきた。
手には焦茶色の大きなトランク。フリルのついた白のブラウスに、膝よりやや長めの紺色のスカートと、良家のお嬢様らしい服装で、高い位置にポニーテールにした髪は赤いリボンで結んでいる。
「忘れ物はないか?部屋の枕は本当に持っていかなくて大丈夫か?」
「もう大丈夫ですよ、お父様。荷物も何度もチェックしたから問題ありません」
レイラがにっこり微笑むと、ファリスは瞳をうるうるとさせながら「レイラ……!」と娘を抱きしめた。温かな温もりが、胸をじんとさせる。
「……気をつけて、行ってくるんだぞ」
ぎゅうぎゅうと苦しいくらいにレイラを抱きしめるファリス。いつもは大袈裟だなと呆れていたレイラだったが、そんな父ともしばしの別れだと思うと少し寂しくなる。
「はい、お父様……」
レイラもギュッとファリスを抱きしめたあと、今度は母に向き直った。
「クリスマス休暇には、あなたの好物を用意して待ってるわ」
エリザベスはそう言った後、しばらくレイラを見つめていたが、それからファリス同様に瞳を潤ませると「レイラ」と娘をギュッと抱きしめた。表面上はどんと構える母でも、やはり娘の旅立ちは心に来るものがあるのだろう。
「頑張ってくるのよ、レイラ」
そう背中を押され、レイラはより一層勉学に励もうと決意を新たにする。出発の時を告げる汽笛が鳴る。別れのときは、もうすぐそこだった。レイラはエリザベスから離れ、今度はとびきりの笑顔を両親に向けた。そして
「では、行ってまいります!」
明るく元気にそう言って、見送りの両親に手を振った。
「手紙はこまめに書いてくれよ!」
「体に気をつけてね!」
周囲も、みな同じように両親との別れを惜しみ、汽車へと乗っていく。レイラもその後に続いて、新たな旅立ちへの一歩を踏み出した。今日から、新たな生活が始まると、期待とほんの少しの不安を胸に抱きながら──。
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