プロローグ

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プロローグ

(えい)。お前は兄の(かげ)として生きろ。いつ何時も自分を押し殺せ。決して他人に感情を悟られてはならない。』  父親に会うたびに洗脳のようにそう唱えられてきた。  全ては兄のため。「由緒正しき家」の長男として生まれた、光の中で生きる兄のため。双子の弟である俺は名前の通り影で生きる。全ては兄のため。それが俺の生きる意味。  俺もいつしか自然とそう唱えるようになっていた。そうでもしないと、脳が勝手に要らぬことを考え出してしまうから。鬱陶しくて仕方がない。そんなノイズはない方がマシだ。どうせ考えたところでどうにもならないのだから。  俺にとって兄というのは特に関わりがなく、言ってしまえばどうでもいい存在だった。そもそも兄に関しては弟がいる事自体知らない。だがそんな兄でも何かあれば俺が責任を取らされて消されてしまう。だから俺は仕事には熱心だった。  兄が素行不良な奴らと関わり始めたら、俺がそいつらを兄から遠ざける。家の格を下げるため兄が犯罪をしたとでっち上げようとする奴には制裁を下す。金持ちを狙った犯罪が起これば大事をとって先に犯人を探し出して片付ける。それが俺の仕事だった。  四六時中兄の周りを警戒しているせいで俺の生活はいつも兄が中心だった。昔はそれが嫌で兄さえいなければとも思っていたが、時が経つにつれてそんなことを考えることもなくなった。今はただ、今日を生きることができればそれでいい。  思えば図らずとも父親の言う通りに育ってしまったんだろうな。 「いつ何時も自分を押し殺し、他人に感情を悟られない。」  いや、もしかしたら「いつ何時も自分を押し殺す」というより、俺にはそもそも押し殺すほどの自分というものは無かったのかもしれない。  …まぁ、もうそんなことはどうでもいいけど。  今日も俺はここに生きている。それだけで今はもう十分だから。
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