第12話 青年

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第12話 青年

「あ、ありがとうございます…大丈夫です」 驚きつつもお礼の言葉を述べる。それにしても、美形だな。マーガレットがイケメンってときめいていたのもわかる気がする。 「…君は、貴族の出?」 「い、いえ」 へえ、だけど…と彼は言葉を濁らせながら、私の手を見る。もちろん、剣があるが…。 「じゃあ、構えてみてくれない?」 「えっ」 「この国の貴族はみんな一度は剣を学ぶんだ。だから、この国の貴族かな、と思って」 そういうことか。 私は貴族ではないから、きっとバレないだろう。従える公国や王国はたくさんあるのだから、わかるはずもない。 私は剣を構えてみせる。 「…確かに、学んできてるね。でも、この国の貴族じゃない。そうでしょ?」 「…はい。私は平民です」 彼は少し笑顔を貼り付けた。そうじゃないんだけど…と呟いているようだが、もちろん私は理解している。彼は、「」貴族じゃないと言ったのだ。貴族であることは事実だと疑っていなかったから、私は平民だと答えた。 誠に恐ろしい。 「君の名前は?」 「セシリアと申します」 「…セシリア…ね」 「?なにか?」 「いいや、なんでもないよ。君は、じゃあ平民なんだね?」 「はい」 「そっか」 アスレリカには「平民」として働いているのだから、これで貴族だとバレるのはまずい。 だけど、多分彼は気づいたんだ。ーー私が、平民でないことに。 「じゃあ」 彼はレストランの常連だが、私たち店員は朝からいちいち話を聞くほど暇ではなく、むしろ人が多すぎて忙しすぎる。つまり、もうこの話題がネタにされることはないだろうーーそう思えたが。 「お久しぶりですね」 また会ってしまった。 ここが城下だからだろうか。ただ、この青年、その髪色と立ち居振る舞いから貴族の子息だ。忙しくはないのだろうか? 「ええ。お久しぶりです」 これ以上探られるわけにはいかないので、私はその場を後にしようとしたーーが、腕を掴まれてしまった。 「セシリア。よければ話を聞いてもいい?」 「…わかりました」 私は平民、彼は貴族。そういうことになっているから、逆らうことはできない。しかも王都にいるあたり、辺境の貴族ではない、正真正銘上流貴族だ。 「さて。君は、何歳?」 「…17でございます」 「そっか。レストランの前にはどこで働いていた?」 「…家庭教師を」 彼はにやりと笑った。推測でも当たっていたのだろうか。まあ、家庭教師=学があるということ。付け焼き刃の教養ではできない仕事なので、自動的に「私は貴族です」と言っているようなものだ。 でも、嘘はつけない。 「どこの国?」 「お教えできかねます」 もしこれでアスレリカから出ていけとかコーネリアに帰れとか言われたら…。 自分に危険が及ぶのは間違いない。 「ティーカップの持ち方が綺麗だね」 「ありがとうございます」 褒められたら、普通は嬉しいのに、今回ばかりは警戒が強まる一方だ。 それでも表情を崩すのは淑女としてあるまじき行動。極力笑顔を貼り付ける。 でも、なんだか彼といると、今までの成果が生かせないような気がしてならない。 「ではこれで」 ふぅ。やっと帰れたーー! あの人は危険だ。私の身に危険を及ばす、そういう存在ーー。 「引き続き、警戒が必要なようね」
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