第6話 隣国アスレリカ

1/2
前へ
/62ページ
次へ

第6話 隣国アスレリカ

「出ていくなど、正気か!?」 父がやってきたその朝は、私にとって快適になるはずだった。 この怒鳴り声と、それからアメリアの顔を見るまでは。 「これから、お前一人で生きているわけないだろう!」 「ええ。だから、経験を積むのですわ。慰謝料は一般の二倍以上をとれたのですから、十分でしょう?」 「だからなんだ!私は、婚約破棄しか許していない!」 「陛下が許されましたわ」 「…は?」 「王妃殿下にはお元気で、とも言ってもらいました。このままではうちは嘘をついたことになりますが」 「く…」 何も言い返せそうにない父の後ろで、様子を見ていたアメリアが駆けてくる。 「お姉様、行ってしまうの?そんなの、嫌…」 「元はといえば、お前と殿下が浮気したからでしょう、いつまでも嘘をついて泣いていたって妃教育は進まないわ。最近もさぼってばかりだと、王妃殿下は嘆いてらっしゃるそうよ」 「関係ないでしょ!お姉様には行ってほしくないの!」 「軽くこき使うつもりかしら。そんなのごめんだわ」 必死に縋り付く妹の手を振り払って、予約していた町馬車との待ち合わせ場所まで行くことにする。 「じゃあね、浮気者さん」 ふふ、と笑ってから、私は歩いて向かう。 ただ、彼女は追いかけてこなかった。様子を窺うだけ。 「へい、お待たせしました。隣国アスレリカ行きですね」 「はい。お願いします」 隣国アスレリカは帝国で大国だ。 うちの王国コーネリアを支配下に置いているといっても過言ではないだろう。多くの公国、王国を従えるアスレリカは、一生に一度は行きたいと思うところだ。 馬車に揺られること一日。 私はようやく、アスレリカに着いた。 一応、これから名乗るのは「セシリア・ライモンド」。平民として過ごしていくつもりだ。 「仕事ですか?」 「はい。できれば、お給金の良いところに」 「ほぉ…」 仕事の紹介所にいた中年の男性は、メガネをくいっと上げながら書類のページをめくる。 もちろんそれは、私が偽造したのも含め(主に名前)、学歴などをいろいろまとめたものだ。 「…なら、家庭教師ですかな」 「かてい、きょうし…」 流石に隣国の貴族にはバレないだろう。 私は紹介してもらい、その仕事を引き受けることにした。 「ふーん。あなたが、セシリアね。よろしくー」 やる気のなさは100%。髪をくるくる手で巻きながら、これっぽっちも私のことを見ようとしない。 「では、基礎から見させてもらいます」 さあ、淑女教育の始まりよ。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加