0人が本棚に入れています
本棚に追加
重厚な扉は、軋むことなく開かれた。
教会はいつだって、神聖な空気に満ちているような気がする。左右に並ぶ木造りの長椅子の間を通り抜け、俺は中央の一本道を歩いていく。
その先、十字架を前にして、一心に祈っている男がいる。天窓から差し込む陽が、彼に白く柔らかな光を投げかけていた。伸びた背筋の、黒いローブの背に、声を掛ける。
「お久しぶりです。牧師さん」
牧師はゆっくりと振り返り、こちらを見つめた。鳶色の目も、その目元に刻まれた皺も、旅立つ前から変わっていない。
「……帰られましたか。ご無事でなによりです」
穏やかに笑みを浮かべる、その笑顔に、俺の身体の中に残っていた最後の強張りが解けたような気がした。牧師の笑顔には、初めて見たときから俺を安心させるものがある。あるいは牧師というのは、そういうものなのかもしれないけれど。
「魔王討伐の噂はこの村まで聞き及んでおりました。思ったよりも、村に戻られるのが早かったですね。しばらくは王都にいるものとばかり」
「村の人にも同じようなことを言われました。なんていうか、気疲れしちゃったんですよね。俺にはきっと、王都よりもこの村が肌に合っているんだと思います」
「ここが落ち着くんです」と言うと、牧師は嬉しそうに眉を下げた。
最初のコメントを投稿しよう!