0人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の呼び掛けに、牧師はゆっくりと、こちらを振り向いた。
「なんでしょうか」
「俺は魔王の元へ向かう道中、色々な場所に行きました。村や街で魔物を倒し、そこで色んな人と話をして、そこで、不思議に思ったことがあるんです」
俺は牧師の目を見据える。
「魔物が現れたのは、俺がこの世界に来るのとほぼ同時なんです。話を聞く限り、俺が来た後に襲撃に遭うようになった所もある」
牧師は表情を変えずに、口を開いた。
「……たまたまその村が、魔物の襲撃に遭うのが遅かったのでしょう。魔王の関心から外れた場所だったのかもしれない」
「そもそもそこが不思議なんです。魔王は何のためにこの世界に現れて、どうして魔物に村や街を襲わせるのか。俺が倒した魔物は、畑や倉庫を荒らして食糧を漁っていたり、住人を追い出して村を占拠していたりするばかりでした。この世界の人々には、まるで関心がなかったんです。……食べる物や住む場所を、確保しているようにも見えた」
「……」
「牧師さん。俺がこの世界に召喚された時、あなたは俺を『勇者様』と言いました。あなたが俺を、最初に『勇者』と呼んだんです。…牧師さん」
俺は問い掛ける。
「俺は、本当に『勇者』なんですか?」
最初のコメントを投稿しよう!