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ふと、牧師の顔が陰った。天窓から差していた陽が陰ったのだ。薄暗い教会は、神聖さを失った、ただの入れ物のように見えた。
そういえば、と俺は思い出す。
俺は日本で育ち、つまり信仰心とは無縁で生きてきたから忘れていたが、ここがどういう場所なのかを今思い出した。
犯した罪を、告白する場所だ。
「……仰る通りです」
牧師は、おもむろに口を開いた。
「私はただ、私の欲のために、あなたを呼び出しました。勇者など、魔王討伐など、すべて空虚な嘘に過ぎません」
「……牧師さん」
「はい」
「もしかして、逆なんですか?」
「……逆、ですか」
牧師はただ繰り返したけれど、きっと意味は分かっている。俺はまた、息を吐き出す。
「魔王がいるから、魔物がいるから、この世界に俺を呼び出したと言ってたけど。本当は、俺をこの世界に呼び出したから、魔物がこの世界にやってきてしまったんじゃないですか? 異世界召喚の弊害として」
牧師は、「仰る通りです」とは言わなかった。でも、その沈黙は肯定には充分だった。
「……牧師さん。牧師さんは、俺に『勇者』という鎧をくれたんですね。
魔物が現れたと同時に異世界からやってきた人間なんて現れたら、確実に結び付けて考えられる。お前のせいで魔物がやってきたんじゃないか、お前が魔物を引き連れて来たんじゃないか。噂が噂を呼んで王都まで轟けば、死罪になる可能性だってあった。
だから牧師さんは、俺を『勇者』にした。魔物と同じタイミングでこの世界に現れた『理由』を、俺に与えたんだ」
答えを出し、俺は牧師の顔を見た。
「もう一度聞きます、牧師さん。
そうまでして、どうして俺をこの世界に召喚したんですか?」
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