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タブレットの明かりが、ぽうぽうと明るい。そこだけがぽっと明るくて、君の顔が照らされている。真剣な目、上下左右に動くペン。わたしは少し離れたところでその光景を眺めている。その時間が好きだ。
「この子、ずっと同じような絵ばかり描いているのよ」
小さいころからずっと言われ続けている。そんな頃から、わたしは君の側にいる。いつまでこんな時間を過ごせるだろうと、成長していく君を見ながら思う日もある。
ある日、君は珍しくスケッチブックを持って旅に出た。行き先は山のなかで、近くには心地よいせせらぎの小川。そこでも君は、ずっと絵を描き続けている。1日2日、1週間1ヶ月1年。どのくらいの月日が経っただろう。その間、行ったり来たりはしていたけれど、大半はそんな風に過ごしていた。わたしは好きだった。ここがずっと好きで、飽きるとか退屈とか、そんな文字はわたしの辞書にはなかった。
ある日、机の上に一枚の紙が置かれたまま君の姿が見えなくなった。慌てて近づいて見てみると、いつもの君の絵だった。こんな風に近くでゆっくり見るのは初めてだけれど。その絵は、ひとりの女の子が描かれている。そこで気がついた。
この子、知っている気がする。
フッと窓に映る自分の姿が目に入った。
君の絵をもう一度見る。
そして窓に映るわたし、君の絵、窓、絵、わたし…
わたし?
弾かれながら涙が込み上げてきた。そして走馬灯のように思い出す記憶。君の声。
「生まれ変わっても、君をずっと描き続けるよ」
「ただいま」
同時に、君の声が重なる。
そうだ。わたし、ここを知っている。
涙が溢れた。
遠い遠い日の記憶。ひとりの男性と過ごした日々を。ずっとずっとスケッチブックやキャンバスに向かっていたあの人。
君は、また絵の前に座る。ずっと眺めながら、難しい顔をしている。わたしは少しずつ心配になりながらそんな君を眺めていることしかできない。
「ただいま」
もう一度そう呟いた君は、コトリと机の上に何かを置いた。愛おしそうな表情。そして、安心し切ったような顔をして突っ伏して眠ってしまった。
君の指の間から見えたのは、キラリと光る指輪だった。
わたしが無くした、あの人から貰った大事な指輪!
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