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機械仕掛けの蜻蛉は、何度も何度も飛翔を試みた。以前の翅と今の義翅では空気抵抗がまったく違う。既存のやり方では駄目だ、新たな飛び方を確立する必要がある。彼は生まれて初めて、自分ができないことをできるようになろうと動いていた。
何日も何日も、彼は飛翔訓練を行っていた。正直、自分でも何故こうしているのか分からなかった。ただ、あの機械工の青年のことを考えると、身体が勝手に動いてしまうのだ。
だが、どれだけやっても飛ぶことはできない。
機械仕掛けの蜻蛉は、賭けに出ることに決めた。虫けららしく地面を這いずり、やがて小さな崖へと辿り着く。どうしても地上では自力で飛び上がることができそうにない。ならば、この崖から飛び降りてみてはどうか。
半ば意地になっていたかもしれない。冷静な判断ではなかったかもしれない。
それでも、このままでは終われないのだ。
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