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それもまた、紛れもない本心だった。確かに小さな画策はあれど、やはり彼を飛ばせてやりたい、その気持ちは初めて出会った頃からずっと変わらない。それは過去の行いに関することでなく、一機械工としての思いだった。
「どうしても一枚だけが義翅だとバランスが合わない。だから、残るすべての翅を切除して義翅へと作り変えようと思う」
青年は、ずっと避けていた修理案を彼に伝えた。もちろんそれは、無事である残りの翅に取り返しのつかないことをする行為である。その決断がどういうことか、本人が一番それをよく理解していた。
「正直今でも、あのトラウマを思い出すと怖くなる。また僕は余計なことをして、誰かの大切なものを台無しにするんじゃないかって」
青年は膝を抱えていた両腕を自由にする。そして、ぐっぐっと右手を握りこんだ。
「それでも、まだこの指が動くうちに、やってみようと思うんだ」
その目には強い光が宿っていた。機械工としてのすべてを賭け、青年は問いかける。
「僕に、君を直させてくれるかい?」
機械仕掛けの蜻蛉は何も言わず、青年の手に触れた。
長い間、ふたりは黙ってそうしていた。
そして彼はその時、自分がすっかり嵐への忌避感を忘れてしまっていたことに気付いた。
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