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二日が経過し、ようやく青年は目を覚ました。
いつの間にか床に転がっていたらしい。ずっと眠っていたせいで身体の節々が痛い。頭もぼんやりしているが、自分が何をしていたのかはすぐに思い出せた。はっと意識を覚醒させ、慌てて立ち上がる。
「あ……」
そこにあったのは、役立たずの虫けらが見苦しくもがいている姿だった。
青年は己の失敗を悟った。できる限りの技術を尽くした。寸分の狂いもなく義翅を作り上げた。
それでも、届かなかった。
元の翅が三枚残っている方がまだ幾分ましだ。自分がやったことは結局、ただ余計な手を加えて劣化させただけだったのだ。
「くそ……くそ……!」
彼を飛ばせてやりたかった。時代から取り残されてしまったこの蜻蛉に、せめて自由を与えたかった。悔しさと罪悪感が熱いしずくとなって両目から流れ落ちた。一生に一度しか入れないような集中力の極致。それを持ってしても、やはり自分には無理だったのだ。
意気消沈の青年は、己の無力を嘆きながら工房を畳んだ。
大家に身体の事情を説明したが、向こうは断固としてそれを認めようとしなかった。いつか必ず青年が身体を治して帰ってくることを信じ、それまで中は撤去せず休業扱いにしてくれるそうだ。
大家の善意も青年にはただ苦しいだけだった。彼の大切なものも直してやれない人間が、どうして自分の身体を治せるというのだろう。
この街にやってきた時と同じように、沈んだ目をして青年は歩いた。街外れにある森の奥深くまで進み、子供が入れる程度の小さな洞穴に機械の虫をそっと放した。
彼をさらに駄目にしてしまった自分は、もう側にいる資格などない。だからせめて、人目に付かず雨風をしのげる場所に移そうと思ったのだ。
「ごめんよ、また僕は余計なことをしてしまった」
青年は肩を落としたまま背を向ける。
最後に、ひどく弱弱しい声で言った。
「やっぱり、僕には竜なんて描けないや」
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