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機械仕掛けの蜻蛉は飛翔した。今度はもう大丈夫だった。エネルギーを得た羽ばたきの速度は、以前とは比べ物にならない。まだまだ飛び方はぐらついて危なっかしいものの、電磁力による空中姿勢制御機能も復活していた。以前の飛翔性能は見る影もないが、それでも自分の意志でこうして飛ぶことができる。
もう、この世界に倒すべき敵などいない。
だったら今は何をする?
今はただ、青年にこの姿を見せたかった。あなたのおかげで飛べるようになりましたと、あなたの決断は間違いなんかじゃなかったと、そう伝えたかった。
ならばこちらから出向けばいい。大切な人との距離がどれだけ離れていようと、今の自分ならきっと会いに行ける。昔の身体に今の義翅。ふたりの親から、身に余るほどの情熱を与えられているのだから。
機械仕掛けの蜻蛉は、南へと向かって飛翔した。
強風の抵抗を受けてふらつきながら、それでも恐れず行きたい方へと突き進む。
竜の軌跡を大空に残しながら、どこまでもその義翅で飛んでいった。
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