ドラゴンリフライ

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 がらくたまみれの小さな工房では、摩訶不思議な機械の検査が行われていた。  作業机の前で、青年は蜻蛉の細部を調べる。調べれば調べるほどに、訳が分からないということだけが分かった。  例えばこの美しい翅。レンズ程度では数えられないほど、極薄の層がいくつも重なって形成されていることが確認できた。最低でも十層以上はある。どのような技術でどれほどの時間をかければ、こんなものができるのだろう。  透明な翅に虹の欠片をさっと散りばめたような色彩。細やかにカットされたダイヤモンドのように、角度を変えると光の加減でその輝きがちらちらと変化する。ただでさえ繊細な技巧を求められるこの翅に、かの職人は工芸品としての美しさまでも追求していたのだ。  何もかも次元が違う。青年の口から純粋な敬意が漏れた。 「すごいや」  蜻蛉は特に抵抗せず、青年の手に身を任せていた。ただ漠然と、もう己の役目が終わったことだけを悟っていた。  ここは静かだ。敵襲のアラートも銃撃音も聞こえない。とっくの昔に戦争は終わったのだろう。開いた窓からは柔らかな春の日差しが差し込んでいた。  かつての世界とは大違いだった。あの国では優れた機械技術と引き換えに、いつも排気ガスと煙が空に広がっていたものだ。  どこか陰鬱な雰囲気があったが、そのずば抜けた技術は他の追従を許さなかった。しかし現在は豊かさを得た代わりに、かつてのテクノロジーは失われてしまっている。生物が生きるには過ごしやすい世界になったようだ。  だからこそ、機械兵器の居場所など、この時代にはどこにもないのだ。  孤独ながらくたは、残酷な時の流れを感じていた。
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