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彼の検査が終わってから、青年は毎日義翅の製作に勤しんでいた。正確に大きさを測り、あらゆる素材とアイデアを試してみた。しかし彼が地の縛りから逃れることはなかった。この精巧な機械の虫を飛翔させるなど、現代の技術では到底再現できない。
「ワーボル、頼んでいた時計できてるかい?」
「いらっしゃい、できてますよ」
工房の入口から声をかけられ、青年は立ち上がった。袖に付着した塗料や油汚れを布で落とし、納品用の棚から年季の入った時計を手に取る。
その針は寸分の狂いもなく時を刻んでいた。青年ひとりだけでやっている小さな工房だが、ここは年中無休で何でも格安で修理してくれると街で評判になっていた。
「おぉ!」
時計を受け取った男性は、喜ばしい皺を目尻に浮かべる。
「ありがたい、亡くなった父から受け継いだ大切な時計なんだ! もう駄目かと思っていたが、また動くようになってよかったよ」
「たまにこうしてメンテナンスをすれば、まだまだ大丈夫だと思いますよ」
青年はにっこりと笑みを浮かべてそう伝える。男性は修理代を手渡し、気の毒そうに眉を下げた。
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