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1ルーブル硬貨
*
赤い屋根が特徴の鉄筋コンクリートの二階建ての小さなアパート。部屋は全部で4部屋しかないが、広々と使えるとあって結構人気で、なかなか空室にならない。一階はワンフロアで俺の家になっている。
「今田くん、いるかい?」
「あっ、しげるさんじゃないですか?」
「ちょっといい?見てほしいコインがあるんだよ」
今田くんは趣味のコイン集めが高じて、ライターをやっている青年である。
「隣の人は?」
「俺の遠い親戚だ」
「今田と書いて、こんだといいます。どうぞ、上がってください」
「今田くん、このコインについて教えてくれ」
「おっ、どれどれ……!?手袋するんで待っててください!」
ポケットからさっと取り出されたルーブル金貨を見た今田の慌てぶりに、俺等は唖然となった。
「これ、ルーブル金貨ですよね?」
「そんなに有名なのか?」
「当たり前ですよ、1898年発行のロシア皇帝ニコライ2世のレリーフした5ルーブル金貨ですね!」
「1898年!?」
「ロマノフ朝最後の皇帝であり、最後のロシア皇帝でもあったニコライ2世……この精緻なデザインが歴史的価値が高いとマニアの中でも人気の金貨ですよ」
始まった。マニアの性というものだろうか、今田くんのマシンガントークが止まらない。
「今でもルーブル金貨が使われてるのか?」
「今はルーブル硬貨や紙幣がつかわれてます。硬貨は1、2、5、10とあります。これが1ルーブルです」
「ありがとうございます」
1ルーブルを手にした瞬間、こうたは顔を少し歪めふらついた。
「どうした?」
「少し思い出したことがあって……」
「よし、部屋に戻ろう。今田くん、色々ありがとうな」
「こちらこそ、ありがとうございます」
こうたに手を貸しながら自分達の部屋へと戻っていった。
「どうやら僕は岬町に住んでるみたいです。このアパートの近くの喫茶店に行ったことがあります」
「それだと、喫茶かげろうだな」
「ルーブル硬貨を手にした時、頭痛がしてふわっと記憶がでてきました」
「こいつを集めたら、こうたの記憶が戻って過去に戻れるのかもしれないな」
間違っているかもしれないが、俺は一縷の望みにかけてみた。
「確かアパートの住人で前いたなぁ〜、とりあえず少し休め!」
こうたをベッドで休まて、俺はもう一人の手かがりになる住人の元へと向かった。
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