2ルーブル硬貨と5ルーブル硬貨

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2ルーブル硬貨と5ルーブル硬貨

*  「三吉ちゃん、いるかい?」  「はーい、しげるさん!!」  三吉ちゃんはバイトをしながら大学の費用を貯めているしっかり者の浪人生だ。彼女の隣に暮らしていたのがロシアからの留学生だった。  「隣にいたアンナと仲良くしていたよね?ルーブル硬貨って見たことない?」  「あっ、アンナのことね!アンナから貰った2ルーブル硬貨を持ってるよ!」  「とりあえず、ちょっと見せてくれない?」  予想通りの結果に、思わずガッツポーズをしてしまった。  部屋に戻り何か探す音を立てながら、三好ちゃんはこう言った。  「しげるさん、今田さんに影響受けちゃったの?」  「まあな」  「何枚か持ってるからあげるよ」  「三吉ちゃん、いいの?」  「しげるさんにはお世話になってるしね」  手渡せれた2ルーブル硬貨は、1ルーブル硬貨によく似たシルバーの小さな硬貨だった。失くさないようにすぐポケットにしまった。  「忙しとこ、ありがとね!」  「うん、またね」  明日は喫茶かげろうへ行くので、何かの手かがりなればと焦る気持ちを抑えながらこうたの元へと向かった。 *  趣のある昔ながらの純喫茶といったところだろうか、緑の塗料は日焼けしてきているのがまたノスタルジーでとてもいい。  「ここが喫茶かげろうだなぁ」  「何だか懐かしい感じがします」  「これも何かの縁なんだろうなぁ、店員さんにロシアの留学生がいるんだよ」  「そうなんですか」  「この喫茶店も俺が小さい頃からあるからなぁ、ここですれ違っていたかもな」  「ですね」  二人は吊るされてるベルを鳴らして、扉を開けた。  赤茶で統一されたテーブルや照明がなんとも昭和レトロで可愛いと、若者押し寄せている。老若男女に愛される昔ながらの喫茶店だ。  「いらっしゃいませ!空いてる席へどうぞ」  「さて、2ルーブル硬貨を手にした時は、好物が分かったわけだな」  「きっと、ここのナポリタンとクリームソーダですね」  こうたの記憶が少しずつ戻っていく中で、俺との接点が多いのは何か関係があるのかと考えていると、銀髪で青い目をしたドールのように可愛いロシア人の店員さんが向かってきた。  「お冷になります、ご注文お決まりですか?」  「ナスちゃん、今日も可愛いね」  「セクハラです」  「相変わらず、だね」  「注文を!」  ナスちゃんの怒った顔も可愛いので一生見ていられる。本人に伝えたらビンタものだ。  こうたは俺らのいつものやりとりに戸惑いを隠せないでいるようだ。  「僕はナポリタンとクリームソーダを下さい!」  「俺はハムカツサンドとホットコーヒーを」  「かしこまりました、少々お待ち下さい」  注文も終え、俺たちは今後について語り合った。  全て集めた後、どうなるかは分からない。別れの時がすぐ来るのか、来ないのか、短い時間を共にどのくらい過ごせるのか、と色々考えていた。だが、決めていることが一つある。それは『こうたを必ず、戻す』ということだ。 *  「ナスちゃん、お疲れ」   「しげるさん、お話とはなんですか」  こうたは先に帰ってもらった後、喫茶店の裏口で仕事終わりのナスちゃんと待ち合わせをしていた。  「いきなりだけど、ルーブル硬貨持ってたりしない?」  「ルーブル硬貨?持ってますけど、何に使うんですか?」  「コインマニアの友達がさ、5ルーブル硬貨と10ルーブル硬貨を探してるんだよ」  予め買っておいた飲み物をナスちゃんに渡して、壁に寄りかかりながら話しを始めた。  「5ルーブル硬貨なら今持ってますよ」  「譲ってくれない?」  「Орёл и решка」  「えっ?なんて?」  「表か裏か、どっちで出てくるかを当てて下さい」  「表」  コイントスとは面白い。必ず勝ってみせると意気込んだ。  コインは宙を舞い、ナスちゃんがキャッチして、その手でコインを隠し、ニコッと微笑みながらゆっくりと手のひらを返した。  「……はい、表なので差し上げます。オリョール・イ・レシュカといいます。オリョールが表、レシュカが裏という意味ですね」  元々、渡すつもりでしたけど……と、はにかみながら伝える彼女はまさに天使だった。  5ルーブル硬貨は金色で前の2つのルーブル硬貨よりも少し大きくほんの少し重たくも感じる。  「今度プレゼント持っていくわ」  「結構です」  「ナスちゃん、クールだね」   「では、失礼します」   ナスちゃんは軽く会釈をして、颯爽と帰路についた。  
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