第一章 醜い顔 (Tの物語より)

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第一章 醜い顔 (Tの物語より)

吐息ですら吹きかけてしまえば何処かへ消えてしまいそうな雫のような小さな種を土に還してやり、振り返りもしない日々の中、大地の奥の見えないところで、のどやかにそして着実に根を張り伸ばし続ける。 大地の重さにも負けずに小さな、それは小さな芽が萌え、やがて青々しい葉が大空へと両手を広げゆっくりと時間をかけ育ち行き、愛らしい蕾ができる。 横風に煽られ、目映える眩い天日にも、機嫌で変わる空の気分の冷雨にも劣らずに、その身を自由に任せ、ようやく蕾がほころび一輪が華めく。 小さい花びらが一枚一枚寄せ集い、凛と一つの主となって咲き、誇らしくも謙虚にもここにいるよと訴えているかのようにたたずむその花を見つめた。 にじり寄るように流れ行く今日までの日々の中、思い知らされたんだ。 生きたい、本当はそうやって生きたいんだと… 僕に与えられたのは家と小さな庭園。 そして、この仮面… 太陽に挨拶することもできず、人に会うことさえ許されずに、ただこの場所に縛りつけられた幼き頃の記憶。 いや、今となっては僕自身が殻を破ることを恐れ自分をこのルークに縛りつけているのだろう。 名前なんて呼ばれない。ないのも同然だ。 だって、僕には呼んでくれる人もいなければ、呼ばれる資格すらないのだから…
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