対価は子どもたちの笑顔とカレー

1/1
前へ
/5ページ
次へ

対価は子どもたちの笑顔とカレー

「こんばんは〜ゆりちゃん!」 「みんな、今日も来てくれてありがとう」 「ゆりちゃん、隣りにいる人はだあれ?」  一人の子供の声掛けを発端に、視線はミザリーに集中していた。 「読み聞かせをしてくれるミザリーよ」 「ミザリー、外国の人?お人形さんみたい」 「よろしくお願いします」 「絵本、読んで〜早く早く」  ミザリーは、子供たちに服をあちこち掴まれながらされるがままに歩き始めた。見かねたゆりは、先に本棚があるリビングに駆け出してこう言った。 「なら、ここに集まって」 「「はあい」」  子供たちはミザリーを囲みながらちょこんと座り、ワクワクした目を輝かせ、読み聞かせが始まるのをを待っていた。 「今日はシンデレラを読むわ」 「シンデレラ、すき」  あたりを見回しながら、子ども達に向けてニコっと笑いながら、ミザリーはそっと絵本を開き、一息ついてから読み始めた。 「遠い昔のお話……」  ビードロのような透き通った声は、子ども食堂の子たちも魅力し、スタッフさんも仕事の手を止めてしまうくらいだ。  ここでも子どもたちに分かりやすいように、ゆっくりとゆったりと読み、時折笑顔をみせながらページをめっていく……。 「はい、めでたしめでたし」 「わぁぁ〜すごいすごい!」 「キレイな声だよ」 「保育園のお遊戯会みてるみたいだった」 「ミザリー、ありがとう〜」  その瞬間、ミザリーの目には子供たちの溢れる笑顔の中にある小さな欠片が見えた。なるほどね、とミザリーは時を止めてから、手のひらを広げて欠片をサァーっと集めた。小さな欠片が15ほど集まり、欠片一つをそっと口に運んだ。 「とても素敵な対価だわ」  パチン、と指を鳴らして時を戻した。  何事もなかったように絵本を片付けるミザリー。 「さて、みんなご飯にしましょう」 「やさいカレー!!」 「今日はね、ミザリーがきてくれたからハンバーグカレーだよ」 「やったぁ〜!」 「さぁ、みんな〜手を洗ってきてね」  ばたばたと走り出し、洗面台にきちんと列を作っていた。 「ゆり、とても楽しいわ。また来てもいいかしら?」 「もちろんよ、いつでも大歓迎よ」  ダイニングテーブルにクロスを張り、食器やカトラリーを並べていく。  ワンプレートにカレーライスとサラダを盛りつけ、テーブルに並べた。  カレーの香りにつられて子供たちは行儀よく、それぞれの席に座り、いただきますの挨拶をして食べ始めた。 「いただきます」  一口カレーを食べて、ミザリーは衝撃を受けた。決して、食欲をそそるような色ではないけど、この鼻を抜けるスパイスの香りが口いっぱいに広がって、飲み込んだ後も香りが残っている。野菜も沢山で栄養のバランスもよく、ご飯との相性がとてもよい。ハンバーグがカレーとよく絡み、単体で食べるのとはまた違う味わいがある。ミザリーは一気にカレーの虜となった。 「ゆり、カレーはとても美味しいわ」 「そうでしょう?最高の対価になったかな?」 「もちろんよ」  水を飲み、一旦口の中をリセットして再び食べ始めようとした時……。 「ちょっと!たけしくん、私のハンバーグ取らないで!」 「食べるのが遅いからだろ?」 「たけしくん、おかわりはあるから他の人から取らないの」 「あら、なんて非道なことをするのかしら?誰に人のものを盗んでたべていいと教わったのかしら?お母さんやお父さんかしら?」  ミザリーは悪魔オーラを子供相手に放った。さっきまで臆することなく生意気な口を叩いていた子が、口をへの字にぎゅっとかみしめ、ミザリーをみないようにと目線をそらしながら震えていた。 「ゆり、この子にハンバーグを」 「……うん」 「たけしくん、みよちゃんに謝りなさい」  かよさんが両肩を叩いた後に、そっと頭をなでながら「できるわね」と促した。 「みよちゃん、ごめんなさい」 「……もう一回したらゆるさないから」 「さぁ、カレーが冷めてしまうわ。気を取り直してたべましょう」  ポンっと手を叩いて、仕切り直しをしたミザリーのお皿にはもうカレーは残っていなかった。 ※  2日後の夕方、いつものように図書館で飛び入りの読み聞かせをした後はゆりと共に子ども食堂にいくのが日課となっていた。 「ゆり、私は対価以上のものをくれた子供たちにお礼がしたい」 「わかったわ、実は今週の日曜日は特別な日なの。子ども食堂が始まった記念日なんだけど、催し物やってみない?」  何かいい案はないかなと見つめあう二人。ゆりはあまり良い案はなそうな顔をしている。仕方ないわねと言わんばかりにミザリーはこう言った。 「それならティーパーティーはどう?知り合いに喫茶店やってる人がいるから協力してくれると思うわ。お菓子作りやお茶を淹れるのが得意なのよ」 「それ、すごくいい!たつやさんにも軽食を作ってもらって……ミザリー、貴女はやはり素敵だよ」 「でしょ?」   テレパシーでジスの了承を得て、ティーパーティー開催に具体的な話し合いをしながら子供食堂へと向かった。 「ミザリー!!待ってたよ〜絵本読んで!」 「遅くなってすみません、さて絵本を読んでほしい人は集まって」 「「はぁ〜い」」   慣れたように子供たちを座らせて、本棚からある一冊の本を取り出した。 「今日は何の絵本?」 「ぐるんぱのようちえんを読むわ」  ミザリーはそっと絵本を開き、子供たちに読み聞かせを始めた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加