ヴィランは綺麗に嘘を吐く

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 私の両手をひとつに束ねたその人は、徐にハンカチを取り出すと目の前でひらひらと翳す。 「泣かないの。約束したでしょ? ずっと俺だけのすずでいるって」  そう言いながら溢れた涙を丁寧に拭うハンカチが、ある程度の水分を拭き取ったら口の中に押し込まれる。「舌噛まれたら嫌だからさ」なんてどこからか出してきたガムテープで塞ぎ、今度は私の両手首をひとつにグルグルと巻いた。 「…っふぅ、う」  苦しい。涙のせいで緩くなった鼻水が呼吸を困難にさせる。顔に張りつく髪の毛で視界も遮られて恐怖を増幅させるだけ。  必死に身を捩る私なんて気にも止めないその人は鼻歌なんて口遊みながら、同様に両足首にもガムテープを巻いていく。 「もう少し普通の恋人ごっこを楽しみたかったけど、仕方ないね。いつまでもこの家にいられないし……すぐに出よう」  きつく拘束された私を妖しい微笑みで見下ろした彼が、クローゼットの奥からスーツケースを持ってくる。  ベッド脇に置いたそれを開くと中身は空で、横たわる私と交互に見合わせたら「うん、いける」と呟いた。 「すずが小柄で助かった。"紫乃くん"はさすがに入らなかったから、バラすのに手こずったんだよね。後始末も大変でさ……まあ、そのおかげですずに会えたんだけど」
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