プロローグ

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「……、?」  いないのだろうか…。私がこの時間に来ることは連絡済みなので、てっきり家で待機してくれているものだとばかり思っていた。  まあカードキーは事前に渡されているのでいなくても困ることはないのだけれど、初日に家主不在で勝手に家に上がるのはなんだか忍びない。  それでもそれなりの荷物を抱えてどこかに移動するのもなぁと悩んだ末、お家で待たせてもらうことにした私はカードキーを翳し鍵を開けた。  ドアを開くとまず私を迎え入れてくれたのはホワイトムスクの香り。思えば男の人の部屋を訪ねるのは初めてのこと。  ここにきてようやく芽生えた違う意味の緊張感に支配された私の背後で、パタンとドアが閉まった。  ほんの少し動くだけで大袈裟に音を立てる紙袋はガサゴソと騒がしく、キャリーバッグをその場に置いてスニーカーを脱げば紙袋片手に室内へ。  築20年になる実家しか知らない私が密かに憧れを抱いていた白いフローリングの廊下には突き当たりにドアがひとつ、それから右手と左手にそれぞれドアがひとつずつ。  ひとまずリビングを目指し真っ直ぐ進んだ私が突き当たりのドアを開くと、想定通りの光景が広がっている。
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