ヴィランは綺麗に嘘を吐く

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「運命的な出会いって感じ?」  そう言って抱えた私の体をスーツケースに押し込んでいく。膝を抱えるように折り畳んだ体は震えるばかりで役に立たない。  殺されるの、私、どうなるの?  一切の抵抗を見せない私の頭を「良い子」と撫でるその人が言う。 「すずは可愛いから殺さない。一緒に来てくれるよね? 大好きだもんね、俺のこと」  こちらをうっとり見つめる瞳、上がった口角。顔立ち全てが理想的な王子様なのに、違う。この人は悪魔だ。鬼だ。この世の悪を煮詰めたような存在だ。  スーツケースがゆっくりと閉められる。光が消えていく恐怖に呻き声を漏らせば完全に閉め切る寸前、数センチの隙間から彼が覗く。 「言い忘れた、俺の名前ね、──だから。二度と紫乃くんて呼ぶなよ、わかった?」  ほんの少し鋭さの増した眼差しに、頷くスペースもない私がぎゅっと目を瞑れば涙再び溢れ落ちる。  怖い、お母さん、助けて。誰か、誰か。 「んぅ…!」  全く知らない名を名乗るその人に向けて必死に訴えかける唸り声を、また、「可愛いね」と愛でられる。  何も届かない、非人道的で満足気な表情を滲ませた彼によって、容赦なくスーツケースは閉められた──。
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