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初夜を迎える寝室の扉を思いっきり閉じれば、散らされていた薄紅色の薔薇の花びらが真っ白なシーツの上で躍りだした。王城敷地内の聖堂で行われた静謐な結婚式のことを思い出しながら、花嫁は花婿となったリシャルトへ顔を向ける。ほんとうなら、国民の前へ顔を出して盛大に祝されるはずの次期国王と聖女の結婚式は、国王陛下とその専属魔術師、そして聖女の両親である公爵夫妻と大魔女だけが証人という慎ましやかなものであった。
ハーヴィック王国第一王子、リシャルト・ステラデ・ハーヴィック。なんにせよ、今日から彼が旦那さまになるのだ。
結婚式のときから圧倒される神々しさを保つ花婿の前へ、花嫁は跪く。
「ご結婚おめでとうございます。本日から聖女ジゼルフィアは貴方のものとなりました」
皮肉めいた物言いにリシャルトが苦笑する。結婚相手に「おめでとうございます」と言われるとは思ってもいなかったのだろう。
「ありがとう。ジゼルフィア・マヒ・デ・フロート。父王より命じられたこの婚姻を喜んでいるのはやはり俺だけだったみたいだな」
どこか納得したような表情で、リシャルトは花嫁を寝台へ誘う。
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