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似ているようで……
ボクは相変わらず淳子さんの裁縫箱の中にいる。三年近くになるが、サビなどはない。ほんの少し光沢が減った気はしないでもないけれど。
そろそろ真由ちゃんがやってくる時間だ。
「おばあちゃん。ただいまー」
合鍵で玄関の戸を開け、元気な声でそう言った。いてもいなくてもこの家に入る時にはそう大声で挨拶するようママから言われているようだ。
「あっ、そうだった。カギかけとかなきゃ」
真由ちゃんはボクのいる部屋にまっすぐにやってきた。彼女は高校生になった時、部活に入らず、淳子さんから「手芸」を習おうと決めた。平日のほとんどは学校からまっすぐ家に帰って、直線距離にして500mのこの家にやってくる。
「昨日の続きをやろうにも、おばあちゃんに教えてもらわないと、なんだけど」
真由ちゃんは彼女専用の作業台で編み物を始める。
「棒針も案外、力加減が難しい。その日によって柔らかすぎたり硬すぎたり……、ここんとこなんて横縞になっちゃってる。戻ってやり直すのもなー」
淳子さんのが伝染ったわけでもないだろうが、真由ちゃんも独り言が多い。
「ただいまー。真由ちゃん。おばあちゃん、お団子買ってきたから一緒に食べよ。お茶は?」
真由ちゃんは編みかけのベストの後ろ身頃を台の上に置いて立ち上がった。
「食べるー」
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