似ているようで……

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「制服のスカートのスナップは外れないようにピチッって止まるのをつけるように、って言ったよね。だから大ばあばのは脱ぎたい時にすぐとれるように甘めのポチッにしたの」  あー、君らもボクと同じか。工場を一緒に出た最愛の相手から引き剥がされて、オスメスぐちゃぐちゃに……。でもボクと違って相手がいるだけ、しあわせだ。 「スナップ代払うね」 「百均のだからいらない。色が鮮やかで面白いと思って、買い置き。役に立ってよかったぁ。赤とピンク、赤と青で迷って。でも、正反対って?」 「ほら、赤は止まれで青は進めでしょ。正反対でしょ」 「そういう意味づけすればそうかもだけど、赤と青の色自体が正反対じゃないよ。そもそも正反対ってどういうこと? 正しく反対?」 「そうねえ、みのりと真由ちゃんは手芸については正反対? 反対じゃ弱いから、(まさ)に反対、大きく違うという……」 「正反対は真逆(まぎゃく)とも似てる。(しん)に逆、考えてみると(へん)」 「それはそうと、今度の日曜に大ばあばのお見舞いに一緒に行ってくれる?」 「いいけど。ママは仕事だよ」 「大ばあばがママを大好きなの知ってるでしょ。今の真由ちゃん、あの頃のママとスゴく似てるの。いろいろ忘れてしまったことが多いけどみのりのことは覚えているみたいだから、このシャツ着てね、って」 「うん。言ってみる。私のことをみのりちゃんって呼ぶ大ばあばの前では正反対のママに変身(へーんしーん)」 「ごめんねー」 「任せて。着てくれるといいなぁ」  似ているようで正反対、正反対のようで似ている真由ちゃんとママと淳子さん。この先も三人を裁縫箱の中から見守っていく、ボクの出番が来るまでは。大ばあばもこの家に戻ってこられるといいけれど……。                     〈了〉
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