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捨てられる
私がやってきたことは何だったのか。
ずっと彼を裏切っていたのは私だ。
嘘をついていた。
私はずっとあなたが大好きだった、と言えなかった。
信じられないほど溺愛されて、彼の指や唇で、彼自身で貫かれて、何度も何度も揺れる体とカラダで愛を確認し合った。彼が透き通る瞳で快感に喘ぐ私をたまらないといった表情で見つめる記憶は……夢だったのだろうか。
「君になしでは生きてはいけないよ……」
彼の温かい唇が繰り返し私に押しつけられて、彼の指が私のカラダをなぞる。のけぞって身悶えする私を愛しそうに撫でてくれた彼のあたたかさは、全て幻想だったのか。肌と肌が触れ合う幸せと切なさと喜びは、全て一瞬の奇跡でしかないものだったのか。
私の足を広げてあなたが私を見下ろす特別な瞬間。愛に悶えるあなたと私。
私の大切な場所は、あなたの侵入しか許していない。
私の肌を褒めてくれたあなたは、愛をささやくあなたは、どこに消えたのだろう。
性急なあなたの愛に溺れそうになる私。
世界があなたの愛でいっぱいになったかのような日々。
もう、体とカラダで確かめ合った愛は消えてしまったのだろうか。
神様なんていないと知っている。
でも、奇跡は起きないのだろうか。
私が彼女からあなたを奪ったのは事実だ。
それなのに。
奪い返されるとこんなにも切なくなるとは知らなかった。
自業自得だと知っている。
知っているのに。
知っているのに、
どうにかならないかと、
いるはずもない神様に祈ってしまう。
私は恋などしていなかったはず。
ただ最初は単にお金のために近づいただけ。
そうだったはず。それなのに、
涙が溢れてきてみっともなく泣いてしまうのはなぜだろう。
胸が痛い。
寂しい。
辛い。
世界が灰色に見える。
最初に落ちた恋を誤魔化したからだろうか。
温かい場所は彼の隣だけではないはずなのに
世界が冷え切ってしまったように
荒涼と感じる。
チュッとリップ音をさせて、私の胸や色んな所にキスをしていたあなたは、今は別の人に溺れている。
揺れる体とカラダの温かさ。
忘れてしまいたいのに忘れられない。
私はただ流されないように頑張るだけ。
もっと大切なものを守るために
愛など恋など捨てたはず。
あなたが彼女のところに行くなんて辛い。
でも、それがあなたの幸せなら、
あなたが彼女を抱く世界に止まって
私の大切なものを守るだけ。
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