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私は必死で門を叩いたドヴォラリティー伯爵家に運よく迎え入れられて、暖かい暖炉の前に座り込んでいた。
ドヴォラリティー伯爵家の当主は若いリーヴァイという青年だ。年齢は24歳ぐらいだろうか。
「何がだめなの?」
リーヴァイは私に聞いた。
私は目の前にいる優しい瞳をしたドヴォラリティー伯爵を見つめた。彼は私に温かいお茶の入ったカップを差し出して、私は煌々と燃える暖炉の前で毛布をかぶって震えていた。
雪で濡れてしまった私のドレスはすぐそばで乾かしてある。
私はカップを受け取って、一口飲んだ。温かいお茶が冷えた体に染み渡る。
「あの子達に会えない未来を選択できないという意味よ。死に戻ったのなら、もう一度会えるようにしなければならないわ」
私は震える声で話し続けた。
「もう一度夫と結ばれなければ、あの子達の居場所がなくなるの。もう一度あの夫と再会しなくちゃ、だめなのよ」
私が涙声で必死で話す言葉は、ドヴォラリティー伯爵にはまるで意味が分からないだろう。私は彼の豊かな茶色い髪の毛と、穏やかで理知的な輝きを宿すブラウンの瞳を見つめた。
彼に全てを打ち明ける訳にはいかない。打ち明けたら、彼は私の事を完全にクレイジーな人だと思うだろう。
私は転生者だ。子供達3人もだ。私がここまで死に戻ってしまえば、あの子たちがあちらの世界から来れなくなる。この意味が分かるのは私一人だ。
私が転生者であることは、彼には理解できないだろう。5年前の過去に戻ったという話だけでも眉唾ものなのに。
「落ち着いて」
彼は私の両肩に手を置いた。お茶の入ったカップを手に床に座り込んで涙を流す私に、彼は真剣な表情で言った。
「君は未来を見たというのか?いや、君は未来を経験したんだね?」
彼はなんとか私の話を受け止めようとしてくれている。ありがたいことに。
私は小さくうなずいた。
「未来で君は皇太子妃になって、子供が生まれたんだね?」
「そうよ。私には3人の子供がいたわ」
「一体、何があった?」
「夫であるアンドレア皇太子はパトリシアを愛してしまい、私には愛がなくなったと、子供と一緒に私は捨てられたの。その後、子供達と私はあなたに助けを求めに行く途中で、命を失った。何かが馬車にぶつかってきて、煙が車内に充満した。馬車の外に出ようとしたけれど、扉が開かなくて出れなかった。子供たちが次々に意識を失ったわ。そして気づいたら、あなたの屋敷の前に私一人でひっくり返っていたのよ。5年前のあの日と同じように」
私は5年前に戻ってきていた。
5年前。
つまり私が結婚する前だ。
その頃、私はただの没落令嬢だ。
5年前の何者でもない自分に戻っていた。
「もう一度やり直すしかないわ」
私は震える声でドヴォラリティー伯爵に言った。
私はもう一度やり直す。
同じ人と結婚をして、子供を3人産む。
もう一度、絶対にあの子たちに会うのだ。
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