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6
だだっ広いだけの生活感のない居間に放り出された透馬は、不安げな眼差しで二人の男女を見つめた。
「んだよ、そんな目で見んなって。俺は暴力したりしないさ」
「……じゃあ一体何を――」
まあまあ、と言われ、男に宥められるように透馬は言葉を遮られる。
「キミ、デカすぎて怖いわ。ちょっと座りな」
「ほんとねえ! マサヤよりも随分おっきい! アソコも期待しちゃうわあ」
マサヤと言われた男の言う通りにその場に座るとすぐ、女が黄色い声を上げた。
「ミドリ……、お前はほんとヤルことしか考えてないな」
透馬は男らから視線を外すと、家具や生活用品がほとんどない部屋を見渡す。龍弥たちはよくこういう部屋をテラスハウス、だとか、テラハと呼んでいたのを思い出す。
嫌なことを思い出し、透馬は手のひらに脂汗が広がるのを感じた。
ほぼ毎日のように殴られ、蹴られ、輪姦された。しかし、テラハでは特に透馬の扱いは酷かった。不特定多数の若い男に犯されるのは日常茶飯事だったが、時に凌辱的で恥辱的な行為を強いられたことを思い出したのだ。龍弥がいないことをいいことに、蝶子のネタで自慰を強制されるのはいい方だ。肛門に排尿されたり、生卵や瓶を入れて割られたこともあった。
彼らは透馬のような強い男を組み敷くことに興奮と快楽を覚えていたのだ。
「だってー、このこ有名人なんでしょ? なんたって喧嘩は無敗とか? 厳つい見た目だけど、でもよく見るとかわいい」
ミドリが透馬の顔を包み込むようにして両手で触る。ローズの香水の匂いが透馬の鼻腔を突いた。
「だろ? たまにはこういう男くさいやつもいいだろ。気に入ると思ったぜ」
「分かってるじゃない。強い男を泣かせるの大好き。うふふ」
そして、二人のやり取りに頭を痛めながら、透馬はこいつらも同じだ、と絶望した。
「じゃ、立ち話なんてのも変だし。早速始めましょう? ちょっと濡れてきちゃったぁ」
ミドリが薄くて形のいい唇を妖艶に歪ませ、頬からゆっくりと肩に手を降ろす。そしてそのまま、優しい手つきで透馬の腹に手を掛けた。
「ま、待て! 俺は、……女とやるとは聞いてない!!」
彼女が透馬に口づけをしようとしたところで、彼はそれを避けるように顔をどけた。
「ええ? 拒否られちゃったんだけど」
ミドリは残念そうに呟くと、「ああもう、めんどいなあ」とマサヤが頭をぐしゃぐしゃと掻いた。
「ほ、他のことだったらなんでもやる。いつもみたいに殴ればいい、蹴ってもいい……。ケツに何突っ込んだっていいさ。だっ、……だから、頼む……これだけはッ」
透馬はとうとう頭を床に押し付けて懇願した。
「え? この子、ゲイなの?」
「んなわけあるか。そもそもコイツが奴隷になった経緯(けーい)は、龍弥の女に手ぇ出したからだぜ?」
マサヤは咥えていた葉巻を口から離すと、「なー?」と透馬の同意を求める。しかし、透馬は微動だにせず、「頼む」と、もう一度譫言のように呟いた。
「なぁに黙ってんだよ、女経験ナシの生粋の童貞クン」
透馬は俯いていた顔がカっと顔が熱くなるのを感じる。クスクスと、ミドリが笑った。
「可愛いじゃない。龍弥の女っていうとぉ、黒川の蝶子ちゃんかしら? 初めては好きな子が良かった? あ、もしかしてこの期に及んでその子とエッチができるなんて思ってるってこと? ……って、顔真っ赤じゃん、山口クン」
「そうじゃない。そんなこと……、俺は……」
「……俺は?」
しかし、透馬はその先の言葉を続けられなかった。
彼女は再び声を上げて笑った。
「……お願いだ」
透馬はきゅっと目を細めて声を絞り出すと、彼女を見上げた。
いつのまにかランジェリー姿になっていた彼女に目を見張る。
「なあ、アンタらは恋人同士じゃないのか? ……俺に何を望んでるんだ」
透馬の言葉にマサヤは噴き出した。
「悪いな、童貞クン。確かにそうだよ? でもさ、俺、寝取られ好きなんだよ。ミドリを挟んで、3Pすんのが好きなの。けど、店の女の子でそーいうことやるわけにもいかないじゃん。だから、お前を買ったってわけ。な、ミドリを抱いてみろよ。なかなか抱けねえぞ、こんな良いオンナ」
彼の言葉にくすっとミドリが笑う。
「……罰は、受ける。それ以外はなんでもする。頼む」
「あーあ、そこまで言われちゃうとなんか心外」
残念そうな言葉に反して、彼女は大胆にショーツを脱ぐ。そして、彼の顎をグイッと上げると、股を顔に近付けさせた。
「じゃあ、蝶子ちゃんに免じて、折れてあげるわ。じゃあその代わり、挿入以外で、楽しも?」
初めての女のアソコ部分に、ゴクンと唾を飲み込む。
「フェラはやったことあるんでしょ? それと一緒よ。蝶子ちゃんのアソコだと思ってやってみていいわよ?」
彼女の前を出され、びくっと巨体を戦慄かせる。
「そんなこと……」と呟き、透馬は顔を逸らそうとした瞬間、背後から頭を押さえ込まれる。
いつのまにか、マサヤが回り込んできていたのだ。
「童貞、拗らせすぎだろー。こっちは譲歩してやってんだからさ、さっさと舐めてやれよ」
「ンぐッ――」
心の準備をする隙すら与えない強引さで、マサヤは自分の女の膣に透馬の顔面を押し付けた。
それと同時にむわっと生臭いような甘いような香りが鼻を突く。
「舌を出して、中に入れてみて? ……はぁ、んんっ。そんな感じ」
裂隙(れつげき)状の穴に舌を這わすと、ミドリは甘美な声を上げた。透馬はガチガチになった陰茎を感じながら、扱くこともできずに、息を荒げた。
彼女は空いている透馬の手を取ると、下着の下に手を入れさせる。
豊満な胸と、ツンと立った乳房が手に当たった。
なぜか、透馬の脳裏に先日のテレビ電話越しに見た蝶子の姿がフラッシュバックする。
「こうするの。……そうそう、そうやって揉むと女は喜ぶのよ」
透馬はあの時の彼女の肉体を思い出しながら、言われたとおりにミドリの胸を揉んだ。
蝶子の来ている部屋着が薄く、彼女の形のいい胸元と腰つきの線が手に取るようにわかった。あの布の下はどうなっているのだろうか? と想像して、何度も達したのは言うまでもなかった。
ミドリほどではないバストと、チラリと見える白い首元、そして鎖骨の形に至るまで繊細に記憶が呼び覚まされる。
徐々に、透馬は、下半身に身につけた下着が濡れてくるのが分かった。
「……ッはぁ。んぐ、あぁ、……くそッ」
マサヤの抑える手を押し切って、息継ぎする声。それが、まるで醜い喘ぎ声のようで罪悪感と背徳感を助長させた。ついつい竿の方に空いたほうの手が伸びそうになるのを、透馬は何とか理性で抑え込む。
「ふふ。いいのよ? 恥ずかしがらなくて」
見透かされたようなミドリの言葉に、透馬の羞恥が漲った。
「そう、そこ。吸って」
透馬は彼女の言いなりになって舌を動かし、這わす。その間にもどんどん下半身が熱を持ち始める。
――黒川、ごめん。黒川……。
心の中で何度も彼女の名前を呼びながら、舌を出し入れし、肉襞を吸う。自分の唾液と彼女の愛液が混じったモノがミドリの膣を濡らす。
するとやがて、「あぁ……ん!」と小さく叫んでミドリの腿がビクッと大きく跳ねた。陰核を彼の唇に押し付け、彼女は果てる。
終わった、と思ったのも束の間、今度は後ろから下半身を弄られる。そして、竿をキュッと握られ、驚いた透馬は慌てて仰け反った。
「おっ、俺はっ! いい!!」
「はあ? こんなに下着べっとべとにしといて?」
スウェットパンツをずらされた透馬に、まるで見せつけるようにマサヤが下着の上から陰茎を握った。
布の部分の色が変わるほどに先走りで濡れている。
「ふふっ! 体は正直ね」
「せ、生理現象、だッ……!」
透馬の目頭が熱くなる。
抵抗しようとするも、マサヤに抑え込まれ、及び腰のままペニスを握られる。快楽を押し殺し、後ろを振り返ると、キッと睨んだ。
「何だよ、その目は」
半笑いでマサヤが一蹴した。前髪を乱暴に掴まれ、「そういう態度、俺は好きだぜ?」と笑った。
「俺も、そろそろ参加しちゃおっかな」
彼はチャックをおろす。それから、ぽろっと一物を取り出した。
「その勝気な感じ、ソソルわぁ。龍弥に可愛がられてる理由が分かる」
「山口くん、下だけ脱いで四つん這いなろっか」
透馬に逆らうことはできず、ギュッと目を強く閉じると、言われたとおりにした。
目尻に悔し涙が溜まるのを感じながら、大人しく四つん這いになった。
「ほんっとおに言う通りにするのね。可愛い」
ミドリに絶妙な手加減で竿を触られ、はぁ、はぁ、と吐く息が熱を持つ。我慢しなければ、と快感で真っ白になる頭で、透馬は何とか射精を我慢しようと、腹筋に力をいれる。
その頃、突然肛門に激痛が走り、「……がああッ!!」と叫んだ。マサヤがアナルセックスを始めたのだ。
「いい声で啼くねぇー。もっと聞かせろよ。な? 何突っ込んでもいんだろ?」
「あはは! めっちゃ感じてる! 変な性癖に目覚めちゃうかもね?」
「ケツでもイけるよーに躾けろ、って龍弥がさ」
全く慣らしもせずに突っ込まれたため、流石の透馬もこれまでにない激痛が全身を駆け巡った。
しかし、彼の意に反して陰茎はムクムクとたちあがる。
「げえ! 本当にケツでいった事ねえの? ガバガバなんだけど。しっかり締めとけよ! ……おら、おら!!
」
「……う、うぁッ!! っつああぁ……ッ! ち、違う、これは――」
「これは、どうだ!? おらっ!」
「無理だ! ……んぐッ!!」
ろくに慣らしもせずに、マサヤはさらに奥に挿入しようとする。直腸に当たるほど衝かれ、悲痛な声で叫んだ。
「好きな女の幸せのために、頑張るんだろ?」
その言葉に、透馬はぎゅっと拳を床につける。
穴の淵が切れた感触が芽生え、傷口からの血が流れ、彼の逞しい太腿を伝った。皮肉なことに、それが滑りを良くした。
「……ちくしょう」と、呟くと、同時に後ろの口で生ぬるい白濁液を飲み込んだ。
結局、透馬はイかせてもらえなかった。
「俺はイイ、っていったもんね?」
ミドリは妖艶に微笑んで、寸止めしたのだ。
「出た、ミドリの必殺技」
肩で息をする彼の呻き顔に、フッとマサヤはタバコの息を吹きかける。
「お前もバカだな。もーちっと、身の程を弁えた女にしときゃ良かったのに」
そう言うと、マサヤはタバコの火を背中に押しつけた。
彼の鍛えられた広い背中の上部は、根性焼きの痕が増えつつある。皆、彼の身体のことを灰皿代わりにしていた。
「かわいそうよ、マサヤ」
ミドリは言葉とは裏腹に、含み笑いをしながら言った。
「ワリ。一度やってみたかったんだわ」
クククっと喉を鳴らしてマサヤは笑った。
透馬はそんな二人に一瞥もせず、黙って立ち上がる。
帰りの支度をしている彼の後ろで二人が透馬の話をしているのを感じながら、彼はぐっと唇を噛み締めると暴れ出したい暴力的な感情を押し殺した。
「あの子、何したの?」
「あー、アイツはな――」
背後で二人の声を聞きながら、透馬は拳を握りしめた。
後悔はしていない、これでよかったのだ。そう言い聞かせながら、あの時のことを思い出しながら、急いで帰路に着いた。
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