第11話 愛人の告白②

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第11話 愛人の告白②

◇ 「…これ以上は、長くなります……。今度、必ず話しますので…」 ティアナは、震えながらもそう言った。そもそも彼女も私も仕事があるので、私たちは一旦わかれ、私は書斎へと向かった。 「レナ。ーーティアナの実家であるイリス男爵家について調べなさい」 「はい、かしこまりました」 ふぅ、と一息つく。 まさか、ティアナがあれほど思い詰めていたなんてーー一体、夫は何をしたのだろうか。 ◇ 翌日、私は月に一度の「定期検査」を行なった。 「定期検査」というのは、このラグリー家で習慣化された、使用人たちの仕事ぶりや態度状況を実際に見て評価することだ。 特に、「いつ行くか」という日にち・時間帯は知らせていないので、彼らは油断できないというわけだ。 「レナ。次は、食堂に行くわ」 「はい!」 私たちは、コンコン、と扉をノックする。 「はーい」 料理人の一人が扉を開けてくれた。 「お、奥様!?」 「ふふ、こんにちは。きちんとやってる?」 「もちろんです!」 一通り見て回る。 仕事の環境として清潔か。配置は適切か。などなどーー。 「合格。あなたたちの料理はいつも美味しいのよ、これからもよろしくね」 「「あ、ありがとうございます……!」」 廊下に出た。 次の行き先は、普段人目につかない庭の手入れをする庭師だ。 「…こんにちは」 「奥様!?」 「定期検査です」 「ああ、そうでしたか。この通り、今は大変な時期ですが…。薔薇が綺麗ですよ、見ていかれます?」 「あら、じゃあぜひ」 そういえば、あの時、リアムが薔薇の話を聞いて妙に反応したのはなぜだったのかしらーーと思いながら花を鑑賞する。 「綺麗ね、心が癒されるわ」 「でしょう」 彼はうんうん、と頷く。 この屋敷の使用人たちは、皆にこやかで優しい人たちなのだ。 「そういえば、倉庫は…?」 「あっ、裏にあります。すみませんが、今手が離せなくて、案内できそうにないのですが…」 「あら、それは頑張って。私たちで行くから大丈夫よ」 「ありがとうございます!」 彼は、庭師にしてはすごく優秀で、花の品種改良までするという、国に貴重な人材だ。それでも、彼は目立たずに生きたいそうで、植物さえあればいいのだとか。特にこの侯爵家の花はずっと見ていられるそうだ。 そして、今から行く倉庫というのは、まぁ庭師の彼が様々な用具をしまう場所だ。 聞いただけでは小さそうに思えるが、流石品種改良をする彼、倉庫も大きいのだ。 「ここね」 「はい。早速見てみましょう」 中は綺麗に保たれていて、空気も清潔だ。 「完璧ね」 倉庫を出て、私たちは裏を通って屋敷に帰ろうとした、そのときーー。 「あ、愛してる、なんてっ…」 「ああ、もちろん。愛しているよ」 この声はーー夫だ。 ルイス様が、他の女性に、愛を囁いているーー。 なぜ、なぜ? あの人は、反省したのでは、ないの? さらに進むと、姿を確認できた。 またもや使用人の一人で、頬を染めている。 「私も好きです。……っ!?」 ああーーこんなところ、見たくなんてなかった。 彼らは今、口付けをしたーー。 「アイリス、様…」 ぽろぽろと涙が溢れる。 彼は、反省したのだと思っていた。そしてまた、私と向き合おうとしてくれている、そう思っていた。 全部、自惚れだった。 「アイリス様……?」 きっと、彼は、また言うのだ。「お前なんかどうでもいい」と。 そして私はまた、傷つくのだ。 これの、繰り返しなのだろうか。 私は何度、彼に恋し、裏切られることになるのだろうかーー。 「っ、ひど、い…」 誰よりも、誰よりも、傷ついた。 そう思ってしまうほど、私はもうボロボロだった。 夫はずっと、最初から、裏切るつもりでいたのだと。 それを知って、でもどうして、ルイス様を嫌いになれないのだろう。もどかしくて、辛くてーー。 「アイリス様…!!」 いつのまにか私はレナによって屋敷に連れ帰ってもらっていて、途中で聞こえたその声は、私を苦しめた愛人だった。 「ティアナ…?」 「大丈夫です、アイリス様。もう、私、あなたを裏切ったりしません…っ」 意味のわからない言葉。 私はその意味を必死に考えながら、部屋で眠りについたーー。 ◇ ズキズキと、頭が痛む。 チュンチュンと鳥の鳴き声がして、私はようやく、今が朝だということを理解した。 「…お目覚めですか?」 「レナ…」 「さあ、顔を洗いましょう」 何も触れずにいてくれることがありがたかった。 それでも、きっと、いろんなことを考えてしまうだろう。 廊下ですれ違うティアナはただ穏やかに笑みをたたえているだけで、他の使用人たちはすぐに眠ってしまった私を「疲労」だと勘違いして「お疲れ様です」と声をかけてくれる。 アークは無愛想だが思いの外優しく、仕事を手伝ってくれると言った。 「みんな、優しい……」 だからこそ、余計に罪悪感が押し寄せてくる。 彼らが「主人」として従い敬っている人を、疑っているのだから。
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