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ー 序章 ー
昔ながらの市営住宅の前にある広場には、気持ち程度の遊具とベンチがひとつ置いてある。
今どきの子供は公園で遊ばないとニュースで見たが、その情報通りいつ通っても人がいないそこは私と彼にとって穴場スポットだった。
「うぅ…むかつく〜…」
桜の木の下にぽつんと佇むベンチに腰掛け近くのコンビニで買ってきた缶チューハイを飲む。
居酒屋を渡り歩いてきたあとの追い酒はあまり進まなくて、ベンチの端に缶を置いたら隣に座る見知った顔がへらりと笑ってみせた。
「あは、今日も酔ってるね、芽依ちゃん」
人懐っこい笑顔でさりげなく攫っていく缶に何の躊躇いもなく口を付け、間接キスなど気にしない様子でごくりと喉を鳴らす彼はふたつ年下の男の子。
「そりゃあもう飲まないとやってられないよぉ七瀬〜」
七瀬とは、半年前に知り合ったばかりなのにそうとは思えないほど意気投合しこうしてたまに会っては愚痴を聞いてもらっている。
聞き上手で人の懐に入り込むのがやたらうまい彼は男ってより女友達に近くて、普段あまり人に話せないようなことも七瀬になら話せてしまうから不思議だ。
「またあの人?」
「ん、そうそう、そうなのよ」
ついつい大きくなる声は誰もいない夜に消えて隣で頬杖つきながらお酒を煽るその横顔を見届けて呟いた。
「私明日誕生日だよ? お祝いしてくれるって言うから楽しみにしてたのに…子供が産まれそうなんだって」
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