ー 序章 ー

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 私には、付き合って1年になる彼がいた。とは言っても相手がどう思っているかは正直よく分からない。  10こ以上歳が離れていて、余裕があって、大人の色気があって。  一目惚れだったけど、妻子のある人だった。  この度めでたく第二子が誕生するらしい。365日ある中で何も私の誕生日に合わせてお腹から出てこなくても良くない? ああ、かなしい  かなしくて、また酒がすすむ。 「ムカつくよ、ほんと…」  七瀬から奪った缶は先程よりだいぶ軽くなっていて、一気飲みしようと傾けた酒が静かにちゃぽんと波打った。  誕生日には泊まりでお祝いしてくれるって言うから新しい服も買って、体のコンディションも整えて、準備万端なのに肝心の相手がいないんじゃまるで意味がない。  むしろそういった事前準備に浮かれていた私の気持ちが乗っかって馬鹿みたいだ、もう。  喉を過ぎて体内へ落ちていくアルコールが胸のもやもやも一緒に運んでいけばいいのに、なかなかどうして、うまくいかない。  こんな日はいつも七瀬が「そうなんだ」「つらかったね」って肯定してくれるから、その笑顔についつい縋ってみたくなる。  そうしてちらりと視線を移せば期待通りの穏やかな眼差しが降り注ぎ、少し丸みを帯びた彼のあたたかい声がやってきた。 「子供なんて産まれてこなければいいのにね」
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