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寝る時は狭いベッドに身を寄せ合って眠る。私の要望で壁に掛けられた時計はチクタクと秒針を刻み、その音を聞きながら握られた手にぎゅっと力を込めればゆるやかに耳の中に滑りこむ七瀬の声。
「芽依ちゃん好き」
「…ん、私も」
「私も、何?」
「…七瀬が好きだよ」
自分の寝室があるくせに、当たり前のように私のベッドにもぐる七瀬は寝る間際までその言葉を言わせたがる。
1日何十回と繰り返し、同じだけ言わされる「好き」はもはや私に色濃く染みつき始めていた。
「…七瀬」
「なぁに、芽依ちゃん」
愛おしい、そんな気持ちが伝わってくるようなキスをして、続く言葉を待つのはゆるく光の差した瞳。
黒くまるいこの瞳から光が消えたとき、私に降りかかる彼の闇が未だ恐ろしくてたまらない。
そう思うからこそ穏やかな表情をみると安心でほっと頬が緩んでしまう。これが俗に言う飴と鞭なのだとしたら、私はまんまと七瀬の策略にやられてしまっているのだと思う。
「七瀬は、いつか私に飽きたら捨てるの?」
…どうしてそんなことを聞いたのか、自分でもよくわからない。ただ、なんとなくぽろっと溢れた問いに無言のまま手を強く握った七瀬が少し苦しそうな声色で呟いた。
「飽きないよ、例え人形みたいに壊れちゃっても大事にとっておくから大丈夫。安心して」
何をもって安心してなどと言えるのか、疑問を抱きつつ一度ゆっくり頷いて、再び訪れる口づけを受け入れる。
いつもそうだ。拒絶しようと思えばできそうな隙だけ見せて、試すようなキスが私の心を蝕んでいく。
受け入れる事──それをあえて私に選択させる七瀬は、きっと私が思うよりずっと残酷な人間なのだ。
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