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「私も七瀬の味方だよ」
そっと告げた言葉は、残酷なほど優しい音を響かせた。目の前には、うん、と幸せを噛み締め唇をきゅっと結ぶ姿がある。
これが欲しいんでしょう、欲しい台詞をあげるから、早く私を信用して。
七瀬に向けて飛ばしたはずのそれは、自分が随分と狡猾な人間に思えてくる。手錠を外してもらいたいが故に必死に媚びを売る浅はかな女。
可哀想なのは七瀬だ。胸の内でどんなことを考えていようが、表に出すものさえ選んでしまえばいくらでも見繕える。
こんな不確かなものに騙されて可哀想。
小さく芽生えた罪悪感が、七瀬の嬉しそうな表情を養分に少しずつ育っていく。
そんなものさっさと摘み取らなければ。絆される前に、情が湧く前に。
「芽依ちゃん……」
慈しみを込めたひと言だった。私を好きという、それだけで日常の全てを賄ってくれる人、この先の人生にもきっといない。
だけど、やっぱり私は家に帰りたい──。
そんな願いが届いたのか、両腕に着けられた手錠をなぞる七瀬がすぅ、と息を吸い告げた。
「これはもう、必要ないかもね」
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