ー 洗脳 ー

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「……っえ…」  私の呟きとほぼ同時に聞こえるカチャン、と軽い金属音。このゆるい圧迫感にどれほど苦しめられたか。  伏せた睫毛の奥で私の手首を見つめたまま、解かれていく黒い手錠。外される様をじっと捉えた瞳が瞬きも忘れ鳥肌が立つ。 「(…外してくれる…本当に…?)」  自由を手に入れた気がした。いや、実際手にしたのだ。七瀬にそれを許してもらえたのだから。  見た目にもすっきりした手元に思わず頬が綻ぶ。変な話、手錠を着けた張本人を前にしても感謝で胸が熱くなった。 「あ…り、がとう…」  締め付けのない解放感にぽつりと溢したお礼は七瀬に届けば「うん」と小さな相槌に変わる。  嬉しくて抑えられない気持ちを抱き締めることで表した私に、少しあたたかい体温がじんわり伝わってきてはぎゅっと強く包まれた。 「逃げないでね、俺から逃げないで」  そう呟いた七瀬の声は微かに震えていて、私を信用したというよりは信用"したい"のだなとなんとなく思った。  存在を確かめるような長く深い抱擁がそれを物語っていて、私はただひと言「逃げないよ」と告げるだけ。  縋る感触はいつもより頼りなく漂っていて、奇妙な関係が浮き彫りになるようだ。
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