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アケビさんは僕を乗せて駅を後にした。
「ア、アケビさん、何処に行くんですか?」
「海よ、海!
どうしてもカトケンさんに見せたい海があるんだぁ……」
「う、海、いいですね!
よく、その海には行かれるんですか?」
「私の育った海なんだぁ……
ここから、2時間掛かるけど、カトケンさん大丈夫?」
「う、うん。
だ、大丈夫です」
僕は初めてバイクの後ろに乗った。
それも憧れのアケビさんのバイクの後ろに……
しかし、この密着感……
もう、胸が張り裂けそうだ。
それに僕の左手は、アケビさんの腹を押さえている。
こんな状態で2時間も僕は耐えれるのだろうか?
市街地を抜け、周りはだんだんと田舎の風景に変わって行った。
「ア、アケビさん……
ス、スピード出し過ぎですよ。」
「大丈夫!大丈夫!
しっかり、捕まっててね!」
僕は必死にアケビさんにしがみ付き、ヘルメットの中では大量の涙が溢れだした。
アケビさんはかなりのスピード狂でバイクを乗ると性格が変わるみたいだ。
しかし、アケビさん……
いい匂いです。
バイクは青空の下、山の峠を超えると遠くに海が見えて来た。
「ア、アケビさん、う、海です。」
「カトケンさん、海が珍しいんですか?」
「は、はい。
こんな綺麗な海、僕、初めてです。」
「近くに行ったら、もっと綺麗ですよ。」
「本当ですか?」
「ぶっ飛ばしますよ!
しっかり捕まっててくださいね!」
「は、はい……
わっ……ちょっと怖いです。」
僕は都会育ちで綺麗な海を見た事が無かった。
1人でドライブには行くが、工場の明かりが灯る夜の海ばかり……
綺麗な海に行きたいとも思った。
でも、想像するだけで寂しすぎる。
砂浜に1人の男なんて……
だから僕は綺麗な海を遠ざけていたかも知れない。
「カトケンさん、着いたよ!」
僕は、アケビさんの無謀な運転で放心状態だった……
バイクを降りると足がガクガク状態……
立っているのが精一杯だった。
「歩いて砂浜まで行きましょ。」
「わぁ!
す、凄い綺麗な海……
アケビさん、海が青い、マリンブルーです!」
「ワハハハハッ!
青いマリンブルー……
一緒です。
近くで見たら、海が透き通ってますよ。」
「本当ですか?」
僕は夢中でアケビさんを追い越して砂浜を駆け抜けた。
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