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「わぁ……
アケビさんの言った通りだ!
ねぇ、アケビさん!
あれっ……
アケビさんがいない。」
アケビさんは、後からゆっくりと、ハァハァしながらやって来た。
「もう、カトケンさん私を追い越すなんて…
でもカトケンさん足速いですね!
さっきまで足が、ガクガクしてたのに」
「あっ、すみません。
ついつい綺麗な海が気になって!」
「凄いですよ。
海の底まで見えます。
こんな海、南国しか無いと思ってました。」
「都会を少し離れるだけで、こんなに海が綺麗になるんですよ。
カトケンさん、あっちに町が見えるでしょ。
あそこが私の生まれ育った町。」
「こんな素晴らしい所で育ったアケビさんだからこそ、海みたいに心が綺麗なんですね。」
僕は初めて、女性に洒落た言葉を送った自分が恥ずかしくなった。
「カトケンさん、お世辞が上手いね!」
これは、お世辞でも無く僕の心から出た素直な言葉だった……
僕は靴を脱ぎ、海に入った。
まるで自分が映画のワンシーンの主役を演じてるかのように…
何だか自分でも怖いくらいに自分に酔いしれてる……
「カトケンさん、海に足つけるんですか?
私も入ろうかな?」
僕達は小さな波を受けながら、足をつけ海に入った。
すると、はしゃいでよろけそうになったアケビさんは咄嗟に僕の手を握ってきた。
女の人と手を繋ぐなんて運動会以来だ……
もう僕は心臓が飛び出てきそうだ……
手は急に汗が滲んできている……
「カトケンさん、凄い手汗だよ。」
「あっ……
ごめんなさい。」
アケビさんの体勢が戻った事を確認した僕は慌てて手を離した。
まだ誰もいない三月の海。
海水は冷たかったが、足元は浸かった状態で僕達は見つめ合っていた。
「カトケンさんごめんね!
はしゃぎ過ぎて転けそうになっちゃった。
さすがだね!
カトケンさん、カッコよかったよ。
咄嗟に私を受け止めてくれるなんて!」
「いやっ……
大丈夫でしたか?
ズボン少し濡れてますよ。」
「大丈夫、大丈夫!」
アケビさん、僕を男として見てくれたかも……
ちょっと攻めなくちゃ……
僕は少しだけ自信になった。
昔、映画やドラマのシーンで砂浜にあいあい傘を落ちてる枝で書いてたよな……
いやっ、それはマズい!
僕達は付き合ってないんだった……
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